5
猛勉強の甲斐あって、俺はなんとかA校に合格することができた。
合格したことに浮かれていられたのも束の間、入学してからというもの進学校の授業スピードについていくだけで必死だったが、それでも高校生活は毎日が輝いていた。
なぜならミナと無事に付き合うことになったからだ。
毎朝いっしょに通学し、帰りも毎日いっしょに帰り、休日はデートをした。デートといっても図書館でミナに勉強をおそわるという、中学時代とあまり代わり映えのしないデートだったが……。
図書館から帰る途中、こんな話をした。
「ミナはもう将来とか考えてるの?」
「え……うん、まあね」
「なに」
「小学校か幼稚園の先生になりたいから、大学は教育学部にいこうとおもってる」
「へえ、先生かあ──なんかミナっぽいな」
「そう?」
「人におしえるのうまいしな、ミナは」
「そう? ありがとう──で、ヒロアキは?」
「俺? 俺は……まだ考え中」
「そっか」
近道のため公園のなかを通りぬけていたときだった。小学五、六年くらい女の子が二人いた。
「どこで落としちゃったんだろう、はあ……」
と、なにやらしょげている。それをみたミナがふたりに近寄っていった。
「どうしたの? さがし物?」
小学生二人は、急にはなしかけられたからか、はじめは身構えていた。しかしミナの穏やかな笑顔をみて安心したようで、はなしはじめた。
「キーホルダーを落としちゃったの。二人でおそろいのやつなのに……」
「これとおなじなんだけど……」
女の子がみせてくれたものはイルカのキーホルダーだった。
「かわいい。手作りなの?」ミナが訊いた。
「そう。ふたりでつくったの」
「そっか。じゃあ、みつけないとね。わたしたちも手伝うから」
(ああ、またミナのお人好しがでたよ──)俺はおもった。
「ね。真田君」ミナは満面の笑みを俺に向けた。
「……はい」
俺たち四人は、女の子二人がいままで歩いてきた道を逆戻りしていった。しかしキーホルダーはなかなかみつけらなかった。日は傾き、空が夕焼けで真っ赤になっていた。
「ないね……」女の子たちもつかれていた。
帰宅をうながす町内放送がスピーカーからながれてきた。子どもたちも家に帰る時間だ。
俺が「今日は諦めて──」といいかけたときだった。力が降ってきた。
──公園のベンチにすわる女の子二人──スカートのポケットからキーホルダーがスルスルと滑り落ちる──キーホルダーはベンチの下の草のなかに──
「あの公園だ!」
「え」ミナがきょとんした顔で俺をみた。
「さっきの公園。もう一度いってみよう」
俺たちはさっきの公園にもどり、公園にあるすべてのベンチを調べた。
「あった!」ミナの声がした。
あつまるとミナの手にイルカのキーホルダーがあった。
「ありがとうございます!」
女の子二人はいまにも泣き出しそうな顔で感謝してくれた。
女の子二人を帰したあと、俺とミナは缶コーヒーを買って公園で休憩していた。
「疲れたあ。足痛てえ」俺は疲労困憊だった。
「けっこうな距離探しまわったもんね」ミナも同様に疲れ切っていた。「でもよくわかったね。公園のベンチの下にあるなんて。確信してたもんね、ヒロアキ」
「え……いや、まあ……勘?」
超能力をつかったとはいえない。
しかし、今回の力はいつもとすこし違っていた。いつもなら未来をみるのに今回は過去をみた。
(能力が拡張している?)
これは過去予知──いや、予知はおかしいか……なら……〝過去透視〟ってことにしよう、とりあえず。
〝未来予知〟だけでなく、〝過去透視〟もできるようになったみたいだ。あたらしい能力が開花することもあるってことか──じゃあ、この力を思い通りにコントロールできる日がいつかくるかも──
「ヒロアキ」
「……え?」
「なに物思いに
「いや、べつに……」
「ねえねえ、そんなことよりさ……いまならだれもいないよ」
「え……」
「だ・か・ら、ふたりっきりだよっていってんの」
まわりをみれば公園にいるのは俺とミナだけだった。それに公園に植えられた木々によって、俺たちは公園の外から隠されていた。鈍い俺もさすがに察した。
「あ……え? いいの?」顔がにやけるのを抑えられない。
「いいよ」
「あざっす!」
俺はミナの柔らかい唇にキスをした。
頭がクラクラする。目の前には潤んだ瞳のミナの顔がある。
「……ああ、もう止まんねえ!」
「ちょ、ちょっとヒロア○%×$☆♭#▲!」
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