3
退院した翌日、早めに家を出た。なぜなら体中の痛みのせいでいつものようなペースでは歩けなかったからだ。
まるで赤ちゃんのヨチヨチ歩きのように一歩一歩──じれったい足取りで前に進んだ。
(もう一日休んだほうがよかったかも)
と内心おもったが、俺はできるだけ早くミナに会いたかった。
〝明後日、学校で待ってるね〟
ミナが俺にいってくれた言葉が、俺を前へと突き動かした。
学校に近づくにつれ、おなじ学校の生徒たちと遭遇した。彼らはみな、俺を追いこしていったが、そんな中、
「よう! がんばれ!」
とか、
「大丈夫ですか?」
とか、顔も知らない上級生や下級生の何人かが声をかけてくれたりした。
やっとのおもいで学校に辿り着くと、校門に立っていた教師たちが俺を称賛してくれた。
「英雄の凱旋だ!」
といって拍手とともに迎えてくれた教師すらいた。
教室にはいると歓声があがった。クラスメイトたちが俺を取り囲んで、
「真田! 怪我は大丈夫なのか?」
「真田君。ミナをたすけてくれてありがとう」
「ヒーロー見参! ヒーロー見参!」
と騒いだ。
世界が一変していた。クラスのなかでも影の薄かった俺が一躍人気者になっていた。
でも俺はそんなことよりもミナの姿をさがしていた。すると、
「どいて! みんなどいて!」
という女子の声。
俺を囲んでいた人垣が割れて、道ができた。その先にミナの姿があった。
「ほら、ミナ」
ミナは友人に背中をおされ、前に進んだ。すこし頬を紅潮させて照れ笑いをうかべている彼女の顔が俺の目の前にきた。
「真田君、おはよう」
「う、うん。おはよう」
「……」
「……」
俺とミナの沈黙に耐えられなくなった観衆たちが、
「おーい! なんかはなせよ!」
「ミナちゃん、がんばれ!」
「ヒュー! ヒュー!」
と一斉に囃し立てた。
× × ×
──未来は変えられる。
予知した未来は、俺自身が干渉することで結末を別のものにできる。ミナを救ったように、悲惨な未来を回避できる。人の役に立てる。正義の味方になれる。
──これが正しい力のつかい方なんだ。
俺は悟った。これは俺にしかできないこと。これこそが俺にあたえられた使命なのだ、と。
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