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 宇宙人がいった超能力とは、どうやら未来予知の能力のようだ。


 すこし先の未来がみえるようになった──というより、といったほうが近いかもしれない。物事の〈原因〉と〈結果〉が同時にわかる感じだ。ある物事を目撃すると、その物事がきっかけで起こる結末が重なってみえる。


 最初の未来予知は、自転車に乗った見知らぬ中年男とすれ違ったときに起きた。その男とすれ違った瞬間──男が信号無視をし、横からきた自動車にはねられ、道路に叩きつけられる──という一連の光景が一瞬にしてみえた。


 二、三秒後に背後で、急ブレーキの音とドンッという衝突音がした。振り向くと、さっきの中年男が道路にころがっていた。


 はじめはただの偶然かとおもったが、そんなことが何回か起こると、


(これが宇宙人のいっていた力か……)


 とおもうようになった。


 しかし、未来予知は──意識を集中しさえすればいつでも自由にできる──とか、そういうものでもなかった。


 力は、気まぐれに降ってきて、勝手に未来をみせてくる。


 未来予知が発動する条件やルールがあるのかもしれないとおもい、いろいろ試してみたが結局わからなかった。


 予知できる時間の長さもまちまちで、通常は数秒から数分──最長でも一時間弱ほどだった。




 力は得たが使い途がないまま数年がすぎた。


 中学のとき、俺は同級生の菊池ミナという女の子を好きになった。


 ミナが女子バレー部だったから俺も男子バレー部に入部したのだが、ふたつの部のあいだに接点も交流もないことを、入部したあとに知った。


 体育館の使用も、月水が男子、火木が女子、といった具合に別々につかっていたので、部活中に彼女の姿をみることもできなかった。いったいなんのために入部したんだか……。


 二年生のときにミナとおなじクラスになれた。しかし十代特有の自意識過剰さのせいで自分からはなしかけることもできず、ただ遠くからみつめるだけだった。


 事件があったのは、生物の授業のため理科室に移動していたときだった。


 俺はミナのすこしうしろをあるいていた。彼女のショートカットの髪の毛や華奢な背中を、ほかのクラスメイトにばれないようにチラチラと盗み見していた。


 そのとき唐突に未来予知のイメージが降ってきた。




 ──階段を上がるミナ──上の階から駆け下りてくる他クラスの男子生徒──男子生徒がミナにぶつかる──ミナはバランスをくずし、階段を転げ落ちる──ミナは床に倒れ、頭の下から血溜まりがひろがる──




 俺は考えるよりもはやく地面を蹴った。


 階段を駆け上がろうとしたとき、ミナが落ちてきた。俺は体で彼女を受けとめた──が、受けとめきれず俺もバランスをくずした。俺はうしろに倒れそうになりながら、ミナを抱きしめた。背中と腰に衝撃があった。ミナを落とさないようにしっかりと抱きしめたまま、自分を下敷きにして階段を滑り落ちた。一段落ちるたびに階段のかどが背中を打った。最後に階下の床に背中と腰を衝突させて、やっと止まった。


「きゃあああ」


 だれの悲鳴かわからないが、だれかが叫んだ。


 俺は背中をつよく打ちすぎて息ができなかった。それに体中が痛かった。


「やばいやばい! だれか先生よべ!」


「おい! 大丈夫か!」


「待て! 逃げんなよ! お前のせいだろ!」


 まわりが騒がしかった。


 激痛に耐えながらうっすらと目を開けてびっくりした。目の前にミナの顔があったからだ。彼女は泣いていた。


(俺を心配して泣いてくれてるのか……)


 俺は感動した。ああ、なんて優しい子なんだろう──




 ちなみに、ミナにぶつかり事故をおこし、こわくなって現場から逃げようとした男子生徒が──金子だった。そいつと将来誘拐を企てることになろうとは、中二の俺はおもいもよらなかっただろう。




 その後、俺は救急車で病院に運ばれた。


 レントゲン検査の結果、打撲だけで骨折はしていないことがわかったのは不幸中の幸いだった。しかし全身痛くて立つこともままならず、一晩入院となった。


 その日の夕方、俺の病室にミナがやってきた。


「き、菊池さん!」


 いきなり体を起こしたせいで背中に激痛がはしった。


「いっ……てぇ」


「大丈夫! 真田君!」


「大丈夫大丈夫。ははは」


(え。菊池さんが俺の名前をよんでる。名前、知っててくれたのかな?)それだけで俺は嬉しかった。


「真田君。ごめんなさい。わたしのせいで……」


「なんで? 菊池さんのせいじゃないよ」


「だって、わたしをたすけるために……」


「いや、そんな……あ、菊池さんは怪我してない?」


「うん、わたしは大丈夫。ありがとう……真田君のほうが大変なのに……やさしいんだね」


 その言葉に俺は完全に舞い上がった。


「痛くない?」ミナが不安げな顔をして訊いてきた。


「うん。痛み止めの薬飲んだから、さっきよりマシだよ。明日には退院できるらしいし」


「そうなんだ……学校は?」


「明後日くらいから行くつもり」


「よかった」ミナは安心したようだった。俺が怪我したことに責任を感じていたのだろう。


 ミナは腕時計をみながら、


「あの……ごめん。じつはこれから塾で……そろそろ行かなくちゃいけなくて」

 といった。


「うん。あ、そうなんだ。気をつけて。ありがとう、わざわざ来てくれて」残念だがしかたがない。


「ううん。それじゃ、行くね。明後日、学校で待ってるね」


「……うん」


(菊池さんが俺を待ってるだって! こんなことがあっていいのか! 神様ありがとう! 予知能力ありがとう!)心のなかで叫んだ。


 おかげで怪我もはやく治りそうだった。

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