国立宇宙局出向ヲ命ス
1
軍人になったことに後悔はしていない。命の保証がない代わりに、金に困ることもない。なのに、ときおり考えてしまう。別の選択肢はなかったのか、と。いまさらこんなことを考えてもしかたがないというのに──
「ボーン」
畑仕事をしていると、とおくで爆発音が鳴った。おそらく壁を越えた何者かが地雷を踏んだのだろう。
命をかけて〈特区〉に侵入したところでなにひとつ利益がないのに、いまだに年に二、三人が壁を越えて特区侵入を試みる。運がよければ終身刑で済むが、大抵の場合は銃で撃たれて死ぬか、地雷を踏んで死ぬかのどちらかだ。
「軍曹」
声のしたほうへ顔をむける。おなじ畑で雑草取りをしていた伍長がいた。
「いまの爆発音は侵入者ですよね。現場へ確認をしますか」
こいつは若いし、まだ伍長に成り立てだ。しかも特区配属になって一週間もたっていない。やる気が溢れ出すぎている。
「ほっとけ。警備班にまかせておけばいい」
「は……わかりました」
「それに、俺を軍曹と呼ぶな。ここでは岸辺と呼べ」
「あ、はい。すみません……岸辺さん」
伍長はおずおずと引き下がって、雑草取りにもどった。
正直にいえば、私は伍長のやる気が鬱陶しかった。私は歳をとりすぎていたし、やる気なんてものはヨレヨレにくたびれ切っていた。はっきりいって兵隊よりも畑仕事のほうが性に合っている。
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