窓の蒼穹
楠嶺れい
草薫る封筒
私は故郷を後にして都会暮らしをしている。
年末、物置の掃除をしていると黄変した手紙を見つけてしまった。
何故こんなところに紛れ込んでいたのか。
悩みながら差出人を確かめる。
それは祖母からの手紙だった。
思い出がよみがえる。
祖母は既に亡くなっている。
そして、私は死に目に会えなかった。
私は日本を離れていたこともあり、訃報を聞いたのは葬儀が終わった後である。
最後に祖母に会ったのは、確か病院の見舞いだったと思う。
骨折した祖母は入院を余儀なくされた。
その知らせを聞いた私は母と一緒に田舎町の病院に向かう。
電車は川沿いを走り田園地帯から徐々に山並みが近くなってくる。
駅からタクシーに乗り病院を目指した。
春の日差しが優しく、いつのまにか私はうたた寝したようだ。
母に起こされると病院に着いていた。
祖母の病室に入ると小さくなった祖母が寝ている。
その時、祖母と何を話したのか思い出せない。
今になって思うと残念だ。
そして時は流れ、帰国して郵便ポストに祖母からの手紙が。
亡くなる数週間前に投函されていた。
手紙を開封すると草の香りがする。
気のせいかもしれない。
書かれていたのは窓から見る景色。
青い空のこと。
病院の窓、薄いレースのカーテンからは青空しか見えなかったことがよみがえる。
帰郷して母に見せると、「最後の時はね……」と言って微笑んだ。
私達はその足で祖母のお墓参りをした。
祖母の眠る丘陵。
私は祖母が見たであろう空を見上げる。
初夏なのに優しく陽が射し、私の髪を風が揺らす。
その丘には。
ただ、風が吹いていた。
窓の蒼穹 楠嶺れい @GranadaRosso
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