15.5 女騎士、推参!



【主な出演者】

 魔王

 M女(ゼッタイコ・ルンルン)

 女騎士(ユリア・シンクレア)




「あ、あのう。失礼いたしまーぅ」


「……ん。なんだ、〈M女〉」


「わ。メガネのお姿もすてきです!」


「ダテじゃけど。キブン、キブン。人類の文献を漁っとった」


「お忙しそうですね。時間を改めます」


「かまわんよ。何か用け?」


「ああああのですね、おきゃおお客さまがお見えになってましゅ」


「――客?」


「ひゃいっ」


「その客とゆーのはそなたの後ろで、そなたに長剣突きつけてる人類のことかや?」


「ひゃいっ」


「ねえ、〈M女〉ちゃん。ひゃい、もいーけどたまにはひぎぃ、とかひぐぅ、でお願いしたい、どーかひとつ」


「?」


 ザクッ。


「ひぎぃいいいいいいい!」


「イエス。ナイスひぎぃ!」


「刺サッテマス刺サッテマスぅー」


「ヤ。そなた金剛族だからそこらのナマクラぢゃ刺さらんから」


「あ、そうでした」


「ちっ。バケモノどもが!」


「初対面の相手にバケモノとは失礼なやつじゃ」


「魔物のくせに何をいうかっ」


「魔物だからってバケモノといっしょにされては困るぞい。どこがどーちがうってゆわれたら、わらわにも応えられんけど」


「では同じということではないかっ」


「そーなるのかな、どーかな、どー思お、〈M女〉たん?」


「やっぱりちがうんじゃないですか? というかこのヒトがいってるのは罵倒ですよね。わたしたちが実際にバケモノかどうかじゃなくて」


「おお、冷静で的確なツッコミ。さすが〈M女〉だけあって罵倒関係にはつおいの」


「どういう意味でしょう?」


「黙れ黙れっ、魔王はどこだ!」


「目の前におるぞ。つか、このロケーションで一目瞭然であろ、玉座に座ってんだし」


「たわごとを。きさまのようなフザけたやつが魔王のはずがないっ」


「メガネじゃぞ。メガネかけてるのにふざけとるとはこれ如何に?」


「賢さ三割増し、ですものね」


「しかり」


「わ。そのお返事のしかたも頭よさそーです」


「さよけ? じゃサービスマシマシで。しかしかしかしかうましかりんこ」


「バカなバカなバカなっ。こんな天然アホまるだしが魔王だなんてっ。死んでいった者たちに申しわけがたたないっ」


「バカに殺されようが、賢者に殺されようが、死んだ事実に変わりはないであろ」


「それもそうですね」


「煩い煩い煩い煩ぁーいっ」


「この人類はいちいち語尾にちいさい『つ』をつけないとしゃべれんのか?」


「面倒くさそうなヒトですね」


「だいたいどっから這入りこんだ。親衛隊は? 扉の外におったであろ」


「斬った」


「ほお。こりゃ〈親衛隊長〉をまたいびる口実ができたわい」


「吹くなっ。きさまの命運もここまでだ!」


「その大仰なしゃべりかたはわらわの好みだけど、同じ人類どうしぢゃと、ともだちすくないタイプだな。わかる、わかるぞう」


「きさまにあたしら人間の何がわかる!」


「わかるさ。だってわらわ地上で暮らしたことあるもん」


「そしてそこで若い娘をたらしこんだ、というわけかっ」


「ほえ。なんのことぢゃ?」


「マリューム・シンクレア。よもやこの名を忘れたとはいわせないっ」


「忘れた。てか知らんと思おからゆっとくと、魔王ってのはすべからくもの忘れが激しいものと相場が決まっておるんじゃ」


「きさまきさまきさまぁあああああああっ」


「ををを。すごい殺気。なぁるなる。そなた、達人級マスタークラスの人類であるな。〈M女〉、下がっておれ。その硬度一〇の美しい皮膚が貫かれるとは思わんけど、衝撃波で表面にヒビがはいる可能性があるからの」


「ひゃ、ひゃい」


「ひょっとして、そなた、勇者の一行のメンバーかよ?」


「魔王、討つべし!」


 ざしゅん!

 ピタ。


「笑止」


「……なん……だと」


「わらわに指いっぽん使わせて、まだ立っていられるとはたいしたもんじゃ。ふむふむ、こーして耳朶に息が吹きかけられるくらい近づいて見ると、そなたの表情には見憶えがあるような気がする(ふーっ)。とゆーか、くんくん、この匂いはよく知っとる。そうか、きさま、あの女医の家の者か。しんくれあ、そーじゃったそーじゃった、確かそんな名前であったな。とゆーことはマリュームとか申すのはあの家の娘のことか?」


「ほんとうに憶えていなかったのか! あの子にあれだけのことをしておいてっ」


「なんのことだ。それよりなんで泣いている?」


「あたしの全力全開が指いっぽんでとめられたんだぞっ。何もかもこれで終わりだ」


「え。そーなのお? 達人級の人類って必殺技だすとき技の名前叫んでからブチかますもんじゃないのお? そこはハズさんでもらいたかったわー、てっきり通常攻撃かと思って期待しちゃったじゃん。ざーんねんっ(ちいさい『つ』をつけてみたよ、魔王より)」


「くっ、殺せ!」


「イエス。ナイスくっコロ!」


「からんからん、『くっコロ』いただきましたー」


「なんなんだっなんなんだっなんなんだよお、こっこんなのこんなのってあんまりじゃないかっ、このバケモノどもにとってあたしはおもちゃでしかないのか!」


「なんだかオンナノコにおもちゃにされたってゆわれると、ゾクゾクするわ」


「うおぉおおおおおおおおおおおおおんぅ、ひっぐっ」


「あ、あ、あ、あのう、ご主人さま。本気で泣いていらっしゃいますから、しばらくそっとしておいてあげたほうがよろしいのでは?」


「泣いたって何も解決せんぞ? イヤ、そーでもないか。ものすごい大粒の涙じゃもの、キラキラ光って、ぽろぽろ頬伝って。これが見られただけでもわらわハッピーよ? じゃけえ、殺さないであげゆ」


「ど、どこまで愚弄するっ、魔王ぅぐ」


「きみといっしょなら、どこまでも」


「ひゃん、低いお声もすてきです!」


「ひっぐ、くっ、クソどもがあっ」


「嘘だよ、嘘。ちょうど人類の協力者が欲しかったところでの、使い途があるから生かしておいてやるだけぢゃ。シリアスな理由を用意しておいてやらんと人類とゆーのはすぐに癇癪を起こす。殺すも生かすも理不尽なのは世のつねであろーに。まったく、泣きたいのはこっちじゃぞい」


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