13.0 議場にて
【主な出演者】
魔王
副官(エパメノインダサ)
とおる(ミョルニロ)
ほかわんさか
わあわあ。ぴいぴい。
「いよいよ人類に対する総攻撃の号令が下るのですかな」
「それ以外に何がある? まがりなりにも知性のある全魔物を一堂に会して」
「ガジロどのの死がよい口実となりました」
「ウズウズしてきた。さあ、殺して殺して、殺しまくるぞ」
「殺気を向けるのは人類相手だけにしなさい。同じ魔物を巻き添えにするつもりか?」
「知ったことか。雑魚のくせにオレサマの傍にいるのが悪い」
「ほう。ゆーね。人類皆殺しの前菜として、ここでわが魔王直属の魔物頂上決戦をおっ始めるってのはどうだい?」
「よろしい。どこからでもかかっていらっしゃい!」
「――静粛に」
「かまわむ。どーせ、わらわの声を聞けばまた騒ぎだす」
ぐぉおおおおおおおおおおおわがまおぉおおおおおおおおおおおおおおお
「二階席ー、聞こえてるー?、とかゆいたくなるぞい」
「本日はあまりおたわむれをなさる時間はありません」
「そうか? わらわはこのあと、予定をごっそり開けておるのだが。何せ、ばあいによっちゃここにいる全員と殺しあうことになるんだからの」
「わが魔王。いまなんと?」
「まだ早い。つぎのわらわのセリフを待ってからゆっても遅くはない」
「どういう意味だろう?」
「……やめた」
「はい?」
「やめたやめた。やっぱ、やーめった(二回め)」
「何をです? わが魔王」
「地上侵攻、人類絶滅」
「!」
「ハイ。ここでさっきのセリフをもう一回」
「わが魔王。いまなんと?」
「〈副官〉ちゃんぢゃないでしょー。ほかのみんなにゆってもらいたかったの!」
「……」
「何、ガンクビそろえてカタまっとるんぢゃ。大好きなアイドルのコンサートに行ったら舞台の上で結婚発表が始まっちゃった、みたいなキブンなのかしら、ひょっとして」
「魔物に通じる言語で話してください」
「だからゆっとるであろ。わらわは手を引く、この全人類をブッ殺す戦争から」
「ご冗談でしょう、わが魔王?」
「冗談なのはきさまらのアホ面だけでたくさんだと思わむか?」
「そ、それはつまり魔王の座を退くという意味ですか?」
「退かんよ。とゆーか、魔王に禅譲はない。魔王の死こそが新たな『歴代魔王の叡智』発効の鍵となる。やめたくてもやめられんのだ、魔王ってのは」
「だったらガンガン行くしかねえじゃねえか!」
「そして勇者に殺されろ、とゆーのかな。チミたちは?」
「わが魔王ともあろうおかたが何を弱気な!」
「弱気じゃねえよ。合理的な判断だ。この戦いはあっちに有利なように仕組まれてる」
「仕組まれてる? いったい誰に」
「さてね。逃げ去った神かな。ともかくわらわは下りる。異論は認めない」
「横暴じゃあ!」
「おまえさんねえ、横暴ぢゃない魔王がどこにいるんだい? いたら会ってみたいもんだよ」
「フザけろ、オレたちゃこれまでなんのために戦ってきたんだ、わが魔王のためだろ?」
「殺しあいは魔物の本能だし、習慣である。ちがうかや? 生命のやりとりの口実にわらわを利用するのはいっこうにかまわむが、それを真実だと思ってもらっては困るな。魔物はしたたかに生きねばならん。魔王すら踏み台にするのが、魔界の華とゆーもの」
「われわれを踏みつけ、足蹴にしているのはわが魔王ではありませんか!」
「そうだよ? だって魔王だもん。きさまらの屍の上を歩くのが、わらわの仕事だ」
「それが無駄死にじゃ報われねえぜ」
「死に報いなど求めるのは間違っている。あらゆる死は無駄であることがその本質だと知れ、キリッ」
「どうあっても翻意なされませぬ、と?」
「おう。イイネ! 殺気が高まってきた」
「暗君をいさめるは忠臣の務めでございますれば」
「よし殺ろう、いま殺ろう。さあ血の饗宴の始まりぢゃあ。ここにいる魔物全員で殺しあって最後に生き残った一匹がつぎの魔王だ。輝け、マオー誕生!」
「それって完全にわが魔王の趣味じゃねえか?」
「そういえば昔ッから好きだったわ、こーゆー遊び」
「なんだ、それが目的か」
「そういうことなら最初からいってくださればいいですのに」
「おいおいおい。何、勝手に納得しとるんぢゃ。いくら厳しくとも現実から目を背けてはいかんぞ」
「わが魔王こそ、現実をシッカリと目ン玉引んむいて見てくださいませ。みな、勇者を、人類を、八つ裂きにしたくて火炙りにしたくてすり潰したくてしかたがないのです。それをわが魔王の一存でやめたとはいかなる了見か? ご説明いただきたい」
「だ・か・ら、拳で語ってやるとゆっているではないか。魔物にとってこれ以上民主的な話しあいの手段はないとゆーのに何を躊躇しとるんだ」
「あーっはっはっはっはっはっ。相変わらずわが魔王は破天荒だな」
「よお、〈とおる〉くん。いきなりラスボス登場たあ、こいつは初っぱなから豪勢ぢゃねえか。ひさしぶりにバチバチしようぜええ?」
「『ラスボス』ってのは確かいちばん強いやつのことをいうんじゃなかったか?」
「必ずしもそーとは限らんが、基本的にはそーゆー認識でかまわむよ」
「だったらそいつはおれじゃなくて、わが魔王だろう」
「このばやいのわらわは主人公枠だから、勘定にいれてはいかんぞ」
「そして、『主人公』は『ラスボス』を倒すってわけか?」
「わらわとしてはぜひともそーしたいところだ」
「なるほど。ひとつ聞きたいんだが、その理屈はおとぎ話か何かに限ったことというわけではないのか?」
「おとぎ話、すなわちフィクションは現実を映す鏡のようなもの。そして現実に存在する物語はすべて勝者の物語となる。なぜなら死んじまったらもう誰も何も語ることはできむのであるから。だから主人公はとりあえずラスボスをやっつけるしかない、どんなやりかたであれ。何かが語り始められるとしたらそのあとぢゃ」
「よし。わかった」
「まじで? 〈とおる〉くんって衒学趣味なの? アーイ・ジーエー・アーイ!」
「わが魔王のいっていることがよくわからん、ということがわかった」
「ベタすぎ。〈とおる〉ちゃん、それベタすぎ。ギャハハ」
「おれは理屈をこねるのは得意ではない。だからほんとうのところはわが魔王が何を考えているのかわからん。だが、ようするに『ラスボス』を下りたいのだろう、ちがうか?」
「うん。当たり。めんごめんご。わらわ、ちょっと、そなたのこと見くびっとった」
「ならばおれはわが魔王にしたがおう。わが麾下の魔物もおれに続け!」
「ミョールニロッ! ミョールニロッ!」
「ミョールニロッ! ミョールニロッ!」
「ミョールニロッ! ミョールニロッ!」
「目立ちすぎ。〈とおる〉ちゃん、これ目立ちすぎ。わらわ、霞んぢゃう」
「許せ、わが魔王」
「くやしいから、わらわもコールに加わっちゃう。ミョールニロッ! それっ、ミャールニロッ! ほれっ、モォールニロッ! ホアアーッぴーぴーががががが……きこえ……ますか?……あなたのこころに……ちょ、くせ」
「決まったな」
「結局いつもの、わが魔王のやりたいことをやっただけ、でしたね」
「というかおれらそれ以外にできなくない?」
「だってわが魔王だし」
「わが魔王だもん」
「わが魔王だよ」
ぐぉおおおおおおおおおおおわがまおぉおおおおおおおおおおおおおおお
「ありがとぉー!」
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