10 難民キャンプにて
【主な出演者】
皇帝(魔王)
副官(エパメノインダサ)
傭兵1(エド・チャック)
傭兵2(クワトロ・パス)
ほか
「いったいここはなんじゃ。何が起こっている?」
「貧民……いえ、平民のようですが?」
「非戦闘員がどーして戦場におるのだ?」
「ここはまだ戦場というわけでは。まもなくそうなる可能性は非常に高いですが」
「〈皇帝〉ェー」
「わらわはきさまらのカイザーではない。同じこと何度もゆわせるなよ」
「あんたがなんといおうがおれたちはあんたについていくって決めたんだ。それより〈皇帝〉。やつら、本気でおれたちを締めだすつもりだ」
「正規兵だけ町の中にいれて、傭兵は城壁の外で待機するように、とたったいま命令が」
「ふむふむ。これから敵が攻めてくるかもしらんのに?」
「〈皇帝〉、おれたち見棄てられたってわけですかい」
「どーやらそのようであるな。せっかくしんがり務めてやつらをここまで護衛してきてやったとゆーのにこの仕打ちとは。なかなかユーモアの精神に溢れているぢゃないか、すばらしきカナ人類。のー、〈副官〉ちゃん?」
「わたしたちが全軍ほぼ無傷でここまでたどりつくとは、おそらく想定していなかったのでしょう」
「だから?」
「物資が不足しているのです。端的にいって、おまえらにくわせる飯がない、というやつですね」
「なるほど」
「ここにいる平民も似たようなものでしょう。この町の堅固な城壁は近隣に知れわたっています。ここなら安全と戦火を逃れた民衆が大挙して押しよせた結果、町で支えられる人数を超えたのです。ただでさえ戦争のために流通は不安定になっていますし、町の指導者としてはやむを得ない措置だったのでしょう」
「それにしてもなんとゆー数の人類だ。町の外に、もひとつ町が作れそうではないか」
「考えることはみな同じ、ということでしょう」
「戦いを逃れて頼ったところがまた戦場になるとは、なんたる皮肉」
「誰もこれほど早く、深くまで切りこまれるとは思っていなかったはずです」
「のんきなこといってるばあいじゃねえよ、〈皇帝〉。とっととケツまくって逃げよう。いまならまだ間にあうよ」
「逃げる? 何をゆっとるんじゃ。まだ金もらってないぞ」
「カネ?」
「忘れたか。わらわたちは傭兵であろ。ギャラをもらう前に戦場から立ち去るわけにはいかんだるろ?」
「何いっつんだよ。負け戦に加わっちまった時点でおれたちは間違えたんだ。だいじょうぶ、生きてさえいりゃつぎがある。〈皇帝〉ならきっとここで取り損ねたぶんもすぐに取りかえせるぜ。なあ、そうだろう? 野郎ども!」
ぶおおおおーっ。
「命あってのモノダネとゆーわけか。人類の傭兵にしてはなかなか殊勝な心がけじゃないか。悪くない。ぢゃけンどのー、わらわ、そうやって道理を説かれると、どおにもこおにも反抗したくなる性分での」
「ご主人さま?」
「しかし、きさまらはきさまらの信じる途を征くがよみ。わらわに具申した勇気に免じてきさらまの取りぶんは、この〈傭兵王〉が支払ってやろう。それ」
どっさり。
「みなで分けて持ってゆくがよみ」
「でもこいつは〈皇帝〉の稼ぎじゃ――」
「代わりにわらわはあの城壁の向こう側でふんぞりかえってる、この戦争の指導者どもから、たらふくぶん捕ってくるから気にするな」
「だけどどうやって?」
「そいつは知らんほーがきさまらのためじゃ」
「聞いたな。ご主人さまの命令だ。誰もついてくるんじゃないぞ。その金を持ってどこへなりと逝くがいい。命があったらまた会おう。そこが地獄でないことを祈って。きさまらに、戦場の女神の加護のあらんことを」
「ふふふ。〈副官〉ちゃんも、すっかり人類の色に染まってきちゃって」
「ただの演技です」
「あの〈副官〉ちゃんがただの演技をするようになっただけでも大事件であろ」
「そんなことよりわが魔王。どうか怒りをお鎮めください」
「怒り? 誰の」
「わが魔王の、です」
「これは怒りじゃないよ。愉楽だよ。人類とゆーのはまったく興味深いぢゃないか。やつら、こんな絶望的な情況になっても戦争をやめようとしないんだから」
「やめるにやめられないのでしょう」
「そんなことはない。指導者の首級を二、三、敵の前に転がしてやれば、とりあえずこの場は収まる。そうする代わりにやつらは町ひとつぶんの避難民を供物に捧げようとゆーのだよ。たいした悪党じゃないか?」
「しかたがないことかと。分け前に限りがある以上、誰かがくいっぱぐれなくては。結局のところ、誰もがわが身はわれで守るしかないのです。すくなくとも、あの高い壁の中にいる連中はみずから武器を手にとりました。そして、ここに集っている者たちはそうではなかった。これはその報いです」
「そいつはそーだ。つおいものは生き残り、よえーものは淘汰される。それについて異論はない。じゃがな」
「……わが魔王?」
「ほんとうにあの壁の向こう側にいるものどもはつおいものたちなのか?」
「人類社会の階級的にはそうなのでしょう」
「カッ。そのような理屈をわらわが受けいれねばならんドーリがどこにある? わらわには、壁の手前と向こう側、どちらにおるのも同じちっぽけな人類にしか見えむでなあ」
「どうかお収めください」
「さっきの傭兵どもは〈副官〉ちゃんのゆーしかたのない運命とやらを受けいれつつ、そいつに抗おうとしていたではないか。いくら脆弱な人類とゆえども、せめてそれくらいの気概は持っていて欲しいものだよ、わらわの敵となる以上はな。そして、運命とは誰の上にも等しく降りかかるものであるべきだ、壁の中だろーと、外であろーと。イヤ、そもそも壁などあるからわずらわしいのだ。よし、決めた。壊しちゃおう。そうすりゃ誰が生き残るべきつおさを持っているのか、はっきりするじゃん」
「いけません。ここで全力をふるうおつもりですか!」
「まさか。5パーセントでじゅうぶんだ。ふんっ。魔王パンチ0.05――」
てん/ポク、
てん/ポク、
てん/ポク、
まる/ チーン。
「あっれえー、おっかしいなあ。ぢゃ、もーちょっちだけ、まおーチャン、本気だしちゃおっカナー」
「ほんとうにッ。わが魔王ッ。悪い予感しかしないのですが――」
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