4 城の前にて



【主な出演者】

 魔王

 淫乱を求めて戦う反乱軍(マダム・クーラー)

 兎(ポヨヨ・バックス)

 サラマンダー/サクラ

 猫(ニャンニャコ)

 工場長(ザザエドモン)


 ほか




「わが魔王。どうかご無事で」


「アタシの下着、お守り代わりに持ってってちょうだい!」


「いらん。きさまの使用ずみの汚い装備なぞ」


「じゃあポヨヨの下の毛を」


「きさまはまだ下の毛生えとらんだるろ?」


「あ、そうだった。てへ」


「〈サラマンダー/サクラ〉姫の下の毛ならもらっておくが?」


「……」


「サクラちゃん、龍の遠縁だから、基本的に毛生えないよ?」


「ま、そーであろな」



 がさごそ、がそごそ。ぷち。



「――はい。どうぞ。わが魔王」


「「「ええええ?」」」


「ねねね〈猫〉もー。〈猫〉は全身毛だらけだかニャ、どこの毛むしってってもかまわないニャ、おねおねお姉さま!」


「喰いぎみすぎだ。さすがにヒくわ。そもそも〈猫〉は幹部だから謹慎しておらなきゃならむはずであろ」


「お姉さまのお見送りができないくらいなら、叱られたほうがましニャン」


「しょーがないやつじゃの、〈猫〉は」


「なーん、おにゃーしゃみゃあー」


「わが魔王」


「わ。毎度毎度くらやみから現れるでない、〈工場長〉」


「嫌がらせでございます」


「殺すぞ、ハゲ」


「くびを斬り落としてからいわないでくれませんか、ニャンニャコさま」


「ちょっと向こうに行っておれ、〈猫〉」


「しょ、しょんニャー」


「ほら、拾ってやる、くびだ。治るか、〈工場長〉?」


「ここは改造ずみでございます。がちゃりんこ。換装しやすいように」


「ひょっとしてそなた無敵なんぢゃないの?」


「そんなことよりわが魔王。くりかえしになりますが、くれぐれも鎧の取り扱いにはご注意くださいますよう」


「鎧のー。もおちょっちどーにかならんかったのか? 主に見ため」


「わたくしは〈工場長〉でございます」


「ち。〈インダストリアルデザイナー〉を通すべきであったな」


「わが軍にはそのような名前を持つ魔物はおりませんが」


「それにこれ、わらわの発注とちがうであろ」


「わが魔王に必要な瘴気をまかなうには低級魔の千や万では及びませんで」


「だからってわらわ自身の瘴気を循環させるのって、くったものを吐きだしてまたくうみたいなもんじゃん」


「反芻というより再利用。下から排泄したものを――」


「黙るがよみ!」


「さきほど姫さまがたとそのような会話をしていらしたので、てっきり」


「何がてっきりか。きさまのグロテスクな嫌がらせにつきあうつもりはない」


「失礼いたしました。生きている限り魔物は瘴気を放出するものですが、この地上では放出された瘴気を補うすべがありません。瘴気の放出は力の強い魔物ほど多く、魔王ともなればその量は厖大、ほとんどダダ漏れといってよろしいかと。ならばその盛大なお漏らしを再利用しない手はございません」


「何がそんなに嬉しいのだ、この変態め」


「ともかく、この見ためは機能に依存しておるのです。外部に対する瘴気の放出を最小限に抑えるため、わが魔王の躰をしっぽり、おっと、すっぽり覆いつくすように設計せねばならなかったのでして、いっひっひっ」


「動きにくくてかなわんぞ。これじゃほとんどロボットではないか?」


「ろぼっと、とは?」


「あーよみよみ。いつものあれじゃ。しかも鎧のくせに防御力なしってどんな呪いのアイテムなの?」


「見ためは鎧でございますが、中身は精密な装置。それゆえ衝撃には弱いのです。ちなみに外からに限らず、内側からの衝撃も同じとお考えください。いうまでもなく、わが魔王の全力をしのぎきる耐久性は皆無です」


「装備すると全ステータスが激しく減少て、ますます呪いがかってる」


「突貫作業でしたので。何とぞご容赦を」


「締め切り厳守だけはほめてつかわす。あとは運用でどうにかするわ」


「わが魔王なら必ずやそうおっしゃると思っておりました」


「壊したときの替えはあるのか?」


「いくつかの部品は魔界より持ってきた虎の子でございます。量産は難しいかと。代替品がこの地上で見つかればよいのですが」


「わかった。わらわのほーでも使えそうなものがないか気にかけておく」


「おねーさまあ。そんな魔改造オヤジといつまでも話してないで、〈猫〉たちと別れを惜しむニャー」


「いまゆくからもそっと待っておれ。最後に聞くが、これが全壊したばあい、わらわは地上でどれくらいのあいだ活動可能かや?」


「即死」


「まことか!」


「――ということはありませんからご安心ください、いっひっひっ」


「きさま、命知らずだな」


「ですからくびをもぎる前にいってくださいませ。がちゃりんこ。そもそもこの装置がなくなればわが魔王は全力をだせるのですぞ。城まで一瞬で戻ってくることも可能でしょう。むしろ、損害がおおきいのはこの地上のほうですな、生身の魔王の瘴気にあてられるとなれば阿鼻叫喚に陥るのは必定」


「ならばよみ。さて、そろそろでかけるとするか」


「どうぞお早いご帰還を」


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