3.5 音楽は聞こえているか?
【主な出演者】
魔王
副官(エパメノインダサ)
M女(ゼッタイコ・ルンルン)
MMO(マッシブリー・マオー・オーケストラ)
「のー? 〈副官〉ちゃん」
「なんでございましょう、わが魔王」
「以前から気になっとったんぢゃけんど、遠方よりときどき聞こえてくるこのミュージックは、いったいなんなのであろ?」
「はあ。みうじっく?」
「あいや、音楽」
「おんがく? はあ、おんがくとはなんでございますか」
「ああ? 音楽は音楽じゃ。〈副官〉ちゃん、音楽知らんの」
「聞いた憶えがありません。てっきりわが魔王の『いつものやつ』かと」
「ナニその常連さんのせりふみたいなの。軽くない? いちおー、『歴代魔王の叡智』ってゆー魔王固有のスキルなのに!」
「失礼いたしました」
「まあ、よみ。それにしても音楽を知らんとはな」
ぱん。ぱん。
「いかがなさいました、わが魔王?」
「……あ、あのう。ひょっとしてなんですけど、お、お呼びになりました?」
「呼んどらん」
「ひ、ひいっ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「わが魔王、ではなぜにわかにお手を敲きになったのです?」
「いまのは音だ。音はわかるな?」
「はあ。手を敲けば音は鳴りますが」
「これにリズムとゆーのを加えてみる」
ぱん、ぱん。ぱぱぱん。ぱぱぱぱ、ぱん、ぱん。
「リズムとゆーのは、ある種の規則性な」
「はあ。それが何か?」
「これが音楽じゃ」
「さようでございますか」
「今度はべつのところも敲いてみるぞ。あしのうらで床を踏み鳴らすとしよう」
どん。ぱん。どん。ぱん。ぱぱぱん、どん、どん。
「どーじゃ?」
「どうかとおっしゃいましても」
「……あ、あのう。ひょっとしてなんですけど、お、音が変わりました?」
「正解! 〈Maid服着せた女魔物〉ちゃん、略して〈M女〉ちゃん、冴えてるぅ」
「あ、あ、あり、ありがたきしやわせでごじゃりまじゅびじゅべばばふしゅう」
「そんなに焦らんでもよかるろ。敲く場所を変えれば聞こえてくる音も変わる。高さ、とゆーか周波数とゆーんだったかの。ここらへんはいつものやつだから、気にせんでよみ。わらわも理解しとらん。〈M女〉」
「ひゃ、ひゃい」
「つぎはなんじも手を敲いてみい。さっきのリズムとゆーのを意識して」
ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱぱぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。
「そのまま続けよ――」
ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱぱぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。ぱん。
どん。ばん。どん。ばん。どっ、どど、どうどう。ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ。
「わかったであろ?」
「いまいちとらえどころがわかりませんが、ようするに『リズム』や音の高低を組みあわせることが音楽、ということで?」
「だいたいそんな感じ。あとハーモニーな、あんまし上手くいかなかったけど」
「ご、ごめんなさい」
「よみよみ、〈M女〉のせいじゃない」
「しかし、これにどんな意味が」
「意味などない。とゆーかやってみればわかる。そうであろ、〈M女〉ちゃん?」
「は、はひ。なんかキます」
「くるとはどういう意味だ。金剛族の娘?」
「いーからやれよ、〈副官〉ちゃんも」
「わたしも、ですか?」
「そおそお、基本的に音楽ってのは乗るもんだから」
「乗る? くるではなくて」
「どっちも変わりゃせんよ。あと、扉の外にいるやつらも呼んできて」
「わが魔王。あのものたちは扉を守るのが仕事です」
「幹部のやつらは全員謹慎中ぢゃしガミガミゆーものもおらむであろ。もちろん、わらわの〈副官〉ちゃんはお目めをつぶってくれるわよね? それと、そこに隠れておる〈奴隷商人〉の手のものもでてくるがよみ。あいつ、まだわらわの生命を諦めとらんのか? ほかにも〈M女〉ちゃんの同僚とか手すきのやつは全員集合――」
わらわら。
ずらり。
「ほんぢゃあいっくぞー」
「わが魔王?」
「途中退場はできません。さん、はいッ」
ぴーっ、ぷるぴぴー、ぷるぷぴぴぴぴー。
ずんちゃん、ずんちゃん、ずんちゃん、ずずずず。
ぎゅるびぎゅるびぎゅるびぎゅるび、ぐごごごごぉ。
がんじゃん、がががががん、がんじゃん、とととれび。
らーらららー、ふー、ふふふー、わかいのかいのしとらんぜぷるかのしんとらいくぜどらうぇんからしいのでけれほとせちんがんしゃんとてごらじずだだいだいそれのからえんぜどざ。ぴーっ、ぷるぴぴー、がんじゃん、がががが、ぐごごごごぉ。すいだらびっこじゃしとせとらえんかんちんとけすめとらこああああいんどくしれみれどすいじゃらねんねきふいそらしとうちゃんでぃっとれうめしらべ。
だだんだだんだだんだんだんだん、だんだーだだん。じゃーん。じゃーん。
はあーあー、あああー、るるるるーるるるるるー。たちつてたちつてたたちちつつつ、ぼん、ぼん、ぼんぼぼぼんぼん、きゅーいん、きゅーいん、どぅーるるるるるるる、ぎゅわーん、ぺぺれぺれぺぺぺんぺぺん、ぺ、ふーしゅるかしゅかる、わっちゃん。どぅどぅっとぅ、どぅどぅっとぅ、どぅどぅっとぅ。
「――手をだせ」
「わが魔王?」
「いーから征くぞ、〈副官〉ちゃん。それ、わらわの足の運びにあわせよ」
「ちょ」
でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
でゅっでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅっでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
でゅっでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅっでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ、でゅーでゅでゅでゅでゅでゅでゅでゅ。
「うまいうまい、ちゃんと踊れとるぞよ」
「なん、です、かッ、これわ、っとと」
「音楽だよ、これも。正確にはダンスだけど」
「いったい、なん、の意味が」
「そんなものないとゆっておろ。何もなくとも乗りたくなるのが音楽だ。意味などあとからついてくるから心配せずともよみ。ほうら、低級魔すら踊っておるぞ。あいつら耳ないのにの。ええい、きょうは無礼講じゃ。踊れ踊れ、わらわと踊れ!」
ブラックアウト
「そ、それでわが魔王」
「ふむ。わらわについてこられたのは〈副官〉ちゃんだけか」
「わ、わたくしも、お、おりましゅー」
「ほう。〈M女〉。さすが金剛族はタフネスぢゃのー。ゆっくり休むがよみ、これにてパーティーはお開きじゃ」
「お話がまだ途中だったはずですが?」
「え? なんだっけ」
「音楽が聞こえるとか聞こえないとか」
「おお、じゃったじゃった。音楽のことはわかったな」
「はい。たいへんおそろしいものであると承知いたしました」
「ヤ、愉しかったであろ?」
「低級魔をはじめ多数のものが踊り死に、叫び死に、音楽死にしておりますが」
「魔物にとって死に優る悦びがあるのか?」
「全力で殴りあったすえのことであれば、おっしゃるとおりですが」
「同じことである。なあ、〈M女〉ちゃん?」
「ひゃ、ひゃいー、殺しあうよりキちゃいましたー」
「こーゆーものもおるとゆーことぢゃ。わらわはセッションより殺しあいを所望するがの」
「しかしこのようなもの、わたしにはついぞ聞こえてきたためしがありません」
「不思議だわ、わらわの耳には、いまもかすかに届いておるとゆーのに」
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