3 広間にて
【主な出演者】
魔王
副官(エパメノインダサ)
猫(ニャンニャコ)
ガジロ
とおる(ミョルニロ)
親衛隊長(ペパルット・ピット)
参謀(ペニッシュ・コック)
暗殺者(キッス・ルックス)
奴隷商人(チタイ・シタイ)
食人鬼(ミチタリ・ノブト)
とんかち頭(カタイ)
通せんぼ(掟の門の守護者)
道化師(ミセモノヤ・タイコウ)
ほか
ガヤガヤ。
「いったいなんの呼びだしだろう? 可能な限り、幹部は全員でてこいなんて」
「わが魔王にしては珍しい」
「わが魔王は会議ぎらいですからな」
「おや、〈美雪〉や〈殿下〉まできておるぞ」
「しっ。始まりますぞ」
「それではわが魔王。開会のあいさつを」
ピタッ。
しーん。
「あいさつ? のー、〈副官〉ちゃん。そんな悠長なことをやってるヒマが、わらわにあると思って?」
「失礼いたしました」
「むろん、わかっておるよな、きさまらがここに呼ばれた理由。はい、〈親衛隊長〉」
「わたくしゅでしか」
「咬んどる」
「わたくしでしゅか」
「また咬んどる。その不運に免じて生かしといてやるけど、わらわの質問の答えとしては最悪な。フツーなら即刻クビだから。解雇じゃなくて、斬首のほーな。クビちょんぱ。きさま以外に〈親衛隊長〉はおらんのだから、余計なことゆってわらわの貴重な時間を無駄づかいさすな。罰として、わらわの椅子になるがよみ」
「はっ」
がたっ。
すたすたすた。
ばっ。
「うむ。よっこらしょっと」
どっか。
「相変わらず、オマエの背中は座り心地いくないの」
「次回までに改善しておきます」
「わが魔王、おたわむれはそのくらいで」
「妬くな妬くな。あとで〈副官〉ちゃんの上にも乗ってやるぞい」
「お姉さま! 乗るなら、ぜひっ、〈猫〉の上に!」
「やぢゃ。〈猫〉ちっちゃいから。つぶれちゃう」
「しょ、しょんニャー」
「こほん。わが魔王?」
「おっと。いけね。とどのつまりだ、わらわは怒っとる。少々おかんむりぢゃ」
「地上侵攻のことだな」
「それ以外に何があるのだ、ガジロ?」
「確かに版図が拡がっていないのは事実だ」
「〈GS4〉が無能だからでしょ。だいたいなんであんなのが地上侵攻の総指揮をやってんのよ、あいつら外してアタシに委せてくれれば」
「控えよ、〈暗殺者〉。わが魔王の御前である」
「そもそも暗殺者が会議に出席するってどうなの?」
「〈暗殺者〉はもー暗殺やっとらんよ? 勇者たちに面割れちゃったし」
「……ごめんなさい」
「あと、ちょっといーか? こっからは発言の前に名前をゆーこと」
「それはどういう」
「わらわに説明を求めるとはいい度胸ぢゃの、〈奴隷商人〉?」
「ひょっとしてわが魔王。われらの表情と名前が一致していないとかいうことはありませぬな」
「わらわが若年性健忘をわずらっておるのは周知の事実である。ごほごほっ」
「開きなおりやがった」
「はい、〈食人鬼〉。名前名乗んなかったからワンペナね。きょうはごはんぬき!」
「しょ、〈
「そおそお。ちゃんと名乗ってからコメントすること。ゆっとっけど、わらわがくれてやった名のほーだからな」
「〈副官〉です。進行役も名乗りは必要ですか?」
「いらん。きさまの意見を述べるときのみ名乗れ」
「御意」
「そなたらがあまりに無能なので驚いておるところじゃ。わらわの栄えある軍勢が、この神のできそこないたちのひしめく地上に侵攻を始めて、千年生きるとゆー鶴が何代くたばったと思う?」
「おで、〈とんかち頭〉。まだそんだには経ってだい」
「わらわは何代、と聞いたのじゃ。聞こえなかったのか?」
「えっど、いぢだい?」
「否、三代はおっ死んでおるわ」
「〈道化師〉でございます。三千年となりますと、ここにいる魔物はすべて寿命を迎えておりますが」
「であろな。だからわらわは不思議でたまらんの。どーしてそなたらはまだおめおめと醜態をさらして生きておるのだ?」
「わが魔王? あ、〈通せんぼ〉ですけど」
「たれか一匹くらい、いまだ人類を根絶やしにできておらむことを恥じて、この場で爆発して詫びる魔物はいないの?」
「ミョルニロ。わが魔王の下にそのような惰弱な魔物がいるとは思えん」
「〈とおる〉くん」
「……」
「〈とおる〉くん」
「……」
「しゃー、ミョルニロぉ。お姉さまが〈とおる〉くんっていったらアンタはとおるくんにゃの! いいからいい直せ」
「手クセの悪い〈猫〉ごときに指図されるいわれはない」
「にゃんだと? いーどきょーじゃにゃーか、おもてへでろい」
「よすがよみ、わらわの仔猫よ。〈猫〉の死を本日のメインイベントにするつもりはない。ぢゃあ〈とおる〉くんはいいよ、そん代わし、ほかのものはわらわの軍勢ナンバーツーのことを〈とおる〉くんと呼ぶように。くんづけであるからな。さまとかはなし。ほんぢゃあ練習してみよっか。〈副官〉ちゃん、音頭をとって?」
「それでは皆さま、ご唱和願います――」
とおるくーん。(ハイ、どうぞ)
ととととおるくーん。
くーん。
ーん。
ん。
「――ご協力ありがとうございました」
「……」
「きさまらこーゆーときだけは団結するよな。だからわらわ好き」
「〈猫〉にゃ。そりゃお姉さまの〈猫〉たちだかニャ」
「そのわらわのきさまらがこのていたらくで、わらわ、ちょっぴりショックぢゃわ。とゆーわけでおまえら全員、謹慎して反省なさい」
「?」
「おやッ? 指揮官クラスがこぞって戦線離脱となると、わらわの人類絶滅計画がとどこおってしまうナー、いやー、困った困った、ドウシヨー、〈参謀〉どの、何かいーアイデアはないかの?」
「〈料理人〉です」
「おお、すまむ。わが参謀こと〈ゲテモノ料理人〉よ」
「わっはっはっ。何か余計な修辞がついていたようですが。気のせいかな?」
「〈料理の才能がまったくないので地方豪族のお抱え料理人をクビになって路頭に迷っていたところを軍師としての才能を見いだされてわが軍に引きずりこまれた青春迷走真っ只中の、参謀〉どの、考えを述べよ」
「約束がちがうじゃねえか、わが魔王! 協力すれば改名してくれるって」
「約束? なんのこと。いーから申せ、〈りょ・お・り・に・ん〉」
「……指揮官が不在となりますと、しゃーねえ、御大将みずからがご出陣召されるほかに途はねーんじゃねえの。ああッ、もうっ、しゃらくせえぞ、畜生め」
「ハっ、その手があったか! しかたがないよの、わらわの元料理人こと〈参謀〉どのがこう申しておるのだもの、よおし、わらわ、ガンバッチャウぞ!」
「ミョルニロ。最初からそれが目的だったのだな」
「ガジロだ。おれもついていく」
「〈猫〉。もニャ」
「却下。とりあえず果報を寝て待つがよみ!」
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