5.
詩織は、あまり賑やかでない繁華街をとぼとぼと歩いていた。
普段ははかないミニ丈のキュロットスカートのお陰で、風の冷たさがいつも以上に身に染みる。
この季節に生足はきつい。膝上まであるオーバーニーソックスを履いてはいるが、足の細さを損なわないよう薄手のものにしたから暖かくはない。
詩織の目から一粒の涙がこぼれた。
今日はまつ毛にマスカラを塗っているから、はがれて落ちた細かい粉が目に入ったのかもしれない。
どこかのトイレに寄って、マスカラだけでも落としてしまおう。こんな顔では、みんなのところに行くことはできない。
詩織はアイドルを目指している。
周りには内緒にしている。そうそうなれるものでもないと、詩織も分かっているのだ。
詩織たちが暮らすこの街にも、数は少ないが、アイドル系の歌手のパフォーマンスを観客に見せるミニ劇場がある。
そのうちのひとつが新しい歌手を募集していて、詩織はさっきまでそれのオーディションを受けていた。
オーディションの審査員たちは失礼だった。
詩織の歌とダンスをちゃんと見ていなかったし、自己アピールの時に「理系(リケ)女アイドルを目指します」と言ったら、苦笑いされた。
見る目がないのは奴らのほうだと自分に言い聞かせるが、落ち込まずにはいられない。
早く友里ちゃんの家に行かなければいけない。芽衣ちゃんのバースデーパーティーがあるのに、思っていたよりも時間を取られてしまった。
詩織はふと、芽衣ちゃんはまた手料理を持ってくるんだろうなと思った。
会費制なんだからそんなことはしなくていいのに。今日のパーティーの主役でもあるのに。
私達5人の中で、一番ヤバいのは芽衣ちゃんだ。
芽衣ちゃんの彼氏のお目当ては、芽衣ちゃんの手料理なのだ。芽衣ちゃんもおそらく気付いている。
男を捕まえる時は胃袋をつかめとは言うが、相手の目的が手料理だけの場合でも、それは正しいのだろうか。
もしも料理をしない女であっても、芽衣ちゃんを好きになる人はたくさんいるだろうに。
詩織は寒さに肩を縮めながら速足で歩いた。
芽衣ちゃんをお祝いしてあげたかった。そして、自分もみんなから慰めてもらいたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます