第3話 壁に耳ありなサキュバスな姉
学校を病気で休みました。
ですが、病気ではありません。
意味わかりませんね。
すみません。
包み隠さずに言うと、仮病です。
やりました。
やってしまいました。
生徒会や部活がどんなに忙しくても体調を崩さなかった私。
部活を、そして学校を引っ張るリーダーとしての責任感を体に常に充填させ、病魔に毛ほども負けてこなかった私。
そんな私は今、堂々と仮病を使い、自身の部屋でベッドに寝ころんでいます。
ちなみに、生徒会と部活を辞めた後も風邪一つ引いていません。
体調を崩すことのなかった原因は責任感ではなかったようです。
それはそれでちょっと悲しいただの健康優良児案件。
まあ、それはいいとして。
今回、私が仮病を使ってまで自室に籠っているのにはちゃんと理由があります。
それは、弟の着替える音を壁越しに聞くためです。
そう、【道徳的かつ戦略的弟成分摂取計画】の始動です。
私は前回、前々回の経験から考えました。
姉感を押し出せば弟を楽しめず、サキュバス感を押し出せば弟の貞操が危うい。
両者のバランスが少しでも崩れると、全てが駄目になる未来が待っています。
でも、それと同時に気づいたこともあります。
徐々に慣らしていけば、いけそうじゃない? と。
弟を目の前にして、咄嗟に体を満たした姉としての私。
姉である私。
サキュバスである私。
ソファで寝落ちした後の私は確実にそのバランスが取れていましたし、今後も取れる可能性を感じました。
つまり、姉である私というフィルターを通して、道徳的かつ戦略的に弟成分を摂取し、サキュバスの体と脳に慣らしていけば、将来的に弟という存在を気兼ねなく楽しめることになるのではないかと。
その答えにたどり着いた私は、部屋で小さくガッツポーズをしました。
部の全国大会でベスト4に入った時ですらクールに振る舞い、微かな笑みを浮かべるだけだった私。
そんな私が思わずガッツポーズをしてしまったのです。
部のみんな、ごめんね。
さて、それはさておき、これ以上のストラテジーは見たことも聞いたこともない私は、早速行動に移すことにしたのです。
まずは、壁一枚を隔てて、鼓膜からのみ弟成分を摂取することにしました。
なんて素晴らしい道徳的配慮盗聴なのでしょうか。
壁を隔てることで物理的な接触を抑え、弟貞操を守りつつ、耳という過敏な箇所に弟の存在を届ける。
あまりの道徳的配慮センスに震えが止まりません。
ちなみに、私の弟は学校から帰ってきてすぐ自室に入り、着替えを済ませてからリビングに降りてきます。
それを壁越しに体感することにしました。
なら、朝でもいいじゃんって思うかもしれません。
ですが、朝じゃいけないんです。
爽やかな朝日差し込む部屋の中で、一人欲情している姿を想像しただけで、私の心は壊れてしまいそうになります。
体験してしまえば壊れてしまうでしょう。
かと言って、弟の帰宅時間が確実に私より遅いとも限りません。
そうであるのなら、この選択がベストなのです。
「ただいまー」
玄関の方から弟の帰宅を告げる声が聞こえました。
いよいよです。
「おかえりなさい。お姉ちゃん、まだしんどそうだから静かにしてあげてね」
お母さんの言葉に心が痛みます。
しかし、そんな感傷的な気持ちとは裏腹に、下半身のスイッチが入ります。
弟はいつものように手を洗った後、自室へと向ってきているようで、トントントンと階段を昇る音が聞こえてきます。
そして、カチャリとドアを開ける音がしました。
「ようこそ」
思わず声が漏れます。
すぐに、しゅる、と布がこすれる音が聞こえてきました。
おっほぉ。
ブレザー脱いだのかな?
脱いじゃったのか?
ということは、次はどこかな?
ネクタイかな?
そんな私の想像をはるかに超える音が聞こえてきました。
どさっ、とまるで弟くらいの体格の男の子がベッドに背中から体重を預ける音が聞こえてきたのです。
「もしかして、ベッドに仰向けになった状態で服を脱ぐ派?」
私の興奮は高まります。
中学生の弟がそんな疲れたリーマンみたいな服の脱ぎ方をするとは。
知り得なかった弟の側面にポジティブなギャップを覚えます。
思わず、壁に当てた手のひらにも力が入ります。
しかし、それと同時にこれまで感じたことのない感触が指先を襲いました。
「え?」
見ると、私の指が壁に食い込んでいました。
それに気づくと同時に、部屋のドアが開きました。
「瑠々、具合大丈夫って、ええ⁉」
開いたドアの先にいたのはお母さん。
風邪(業深め嘘)な私に元気をだしてもらうためでしょう。
お盆に私の大好きなケーキを乗せています。
私はお母さんを視界に収めながら、脳を高速回転させ言い訳を考えます。
しかし、毛ほども言葉が出てきません。
そんな困惑と動揺をする私の体を、お母さんは強く抱きしめてきました。
「ごめんね。こんなに辛い風邪だったなんて気づいてあげれなくて」
「あ、あー……。うん。うん……そんな感じ」
私の口から漏れるのは、肯定とも否定とも取れない言葉だけ。
涙をこぼすお母さんに本当のことなど言えるわけもなく、ただただ申し訳なさだけが募るのでした。
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