3.副大統領の執務室にて

「へえ。そういう影響も出てんだね」

 秘書からの報告を、副大統領はおやつの大福餅を食べながら聞いていた。

「も~。ある程度火消しした後は、放置プレイで終わらせようと思ってたのに…。ま、その火消しが上手くいってないんだけど」

 ぶつぶつ言いながら、副大統領は緑茶をすする。


 今回の騒動がなかなか終結しないのは、大統領のその後の言動のせいだった。

側近達の努力にもかかわらず、当の本人がちょこちょことヤケボックイに火がつくようなことをしでかしてくれているのだ。


「やっぱ、大統領はちょっといっちゃってるんだろうね。次の選挙まで私と大統領補佐官とでカバーして隠しとこうと思ってたんだけど、無理かな…」

 これを聞いた秘書たちは、息を飲んだ。

「副大統領…」

「では、いよいよご決断を…」

「対外的なもんもあるからね。軍事侵攻の対象として名前をあげられた国にも謝んないといけないし」

「では…」

「うん。狂った大統領を押さえるのも、私の役目だと考えている」


 この国には、こういう時に使える便利な制度がある。

 もともとは、どこかの国の武家という組織の中にあった制度で、トップ(殿)が私欲に走って勝手なことをし始めた際、部下(家老その他)がトップの職権を取り上げて、自分達の組織の政治を守ったのだ。


「しかし、なんでこんなことになっちゃったかねえ…。コロナで行動が制限されてストレスが溜まったのかな」

 苦々しそうな顔で話す副大統領に、秘書たちが元気づけるように声をかけた。

「副大統領。私達はあなたを支持します」

「あなたも決して完璧ではないが、今の精神状態の大統領よりはマシだ」

「右に同じです」

「う~ん?応援してくれてるんなら、まあいいか。ありがとう。心強いよ」

 副大統領は、固定電話の受話器を取り上げた。

 この電話機は有事の際の緊急用として、複数の関係部署に一度に繋がるようになっている。

 副大統領は、その制度を発令するキーワードを口にした。


「殿ご乱心!!」


 そして、合法的かつ平和的に、大統領の療養が決定された。

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