第4話 7月8日
彼女が現れなくなってから、一週間が経った。
僕らの関係性は非常に希薄なもので、例えるなら、野良猫と近所に住む人間のような関係性。
たまに会ったり、会わなかったり。親しくなったと思えば、急にそっけなくされたり。そんな間柄だ。
思い返せば、僕らは互いのことを何も知らない。
知っているのは名前だけ。
別に野良猫と会わなくなっても、まあそんなもんか、と思うだけだ。
だから、今回の件も、特段気にする必要はない。
一つ年上の先輩と、偶然出会って、そして会わなくなった。
ただそれだけだ。
なのに。
なのに、思いとは裏腹に、身体は勝手に動く。
よく、脳みそは全身を動かす司令塔だ、なんて言うけれど、あれはきっと嘘だ。
だって、自分の考えと行動が一致していないのだから。
僕は今現在、腰越高校の三年生の教室があるフロアをうろついていた。
「これじゃ、先輩にフラれて未練たらたらのダサい後輩じゃないか」
そんなことを思いながら、僕は歩く。
ただ、僕は確かめたいのだ。
彼女が来なくなった理由を。
いつも素っ気ない僕に愛想を尽かせたのか、あるいはどこか体調を崩したのか。
別に理由は何でもいい。
ただ、彼女の存在を、あの、いつのも場所以外でも彼女が居ることを確かめたいだけなのだ。
「それ、誰?」
何度このセリフを聞いただろう。
全部で五クラスある三年生の教室をまわって、手当り次第尋ねてみた。
「片瀬咲良先輩ってご存じですか?」と。
けれど、返ってくる答えは、決まって「誰?」だった。
そんなことがあるだろうか。もう二十人くらいには声をかけた。
それだけじゃない。わざわざ職員室に行ったりもした。
けれど、彼女の存在を確かめることは出来なかった。
最終的に、この腰越高校には「片瀬咲良」という生徒は存在していない、ということだけがわかった。現在にも、過去にも。
何か、ものすごく面倒なことに巻き込まれている、そんな予感がした。
別にどうしても会いたいわけじゃない。
まして好意を抱いているわけでもない。
野良猫みたいな彼女の存在を確かめたかっただけなのに。
なのに、通っていた学校から、存在ごと消えてなくなってしまうことなんてあるだろうか。
出会って一カ月足らずの、名前以外何も知らない彼女の身に、一体何が起きているのだというのだろう。
いや、違う。
きっと彼女の存在が腰越高校から消えたんじゃない。
彼女は、
そう、片瀬咲良は嘘をついている。
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