6A-8☆『同題 -後始末-』
「……お、一丁前に包囲攻撃でもしようってのか」
一人やられてから亡霊戦士達の戦術が変わる。
安易に間合いを詰めず、一定の距離を保ったまま散開して各々が別方向から
ジュリアスを襲うという意図なのだろう。おそらく同時ではなく、一人に対処した
瞬間に雪崩を打って掛かるに違いない。
──その時である。小さな足音と荒い呼吸が早足ですぐ近くまで来ているのを
ジュリアスは察知した……!
『氷の精霊よ 我が呼び掛けに応えよ 極寒の
我に纏わり 氷結の雪化粧となれ』
一刻の猶予もないと踏んだのか呪文の詠唱は先程よりもさらに早い、彼が発した
だろう言葉自体は分かるものの理解には今一度、
高速詠唱。まるで反射的に呪文を唱えているかのような、
『
紙一重だったが、呪文の完成の方が早い!
爆発的に冷気が術者を中心に発生したかと思うとそれが巻き戻るように吸収され、
ジュリアスの服や身体に氷が霜のように貼りついている。
魔法に怯んで立ち止まった
──が、ジュリアスの凍り付いた衣服にはまるで歯が立たず、
「
合言葉と共に纏った凍嵐が解放され、まるで
世界が夏の夜に再現された!
ジュリアスの間近で冷気をまともに浴びた猟犬擬きはたちまち芯まで凍り付き、
風圧に吹き飛ばされて以後、動かない。
そして彼を囲んでいた亡霊戦士達も見る間に動作がぎこちなくなり、ドーガ達も
魔法の余波を受けるが咄嗟に塀の陰へ隠れたので直撃は避けられた。
……ジュリアスは最後の仕上げとばかり、呪文の詠唱を開始している。
「其は想念と意志の力 奇跡を顕現する根源 我が手に風を『支流を引き込み渦と
なれ』『葉を切り裂き』『小枝を落とし』『幹に食い込む』刃となりて『駆け抜ける
脱兎の如く』『力尽きるまで』薙ぎ払え──」
左手に魔力が集中する、
「
呪文の完成と共に彼の手から放たれた風の刃が動きの鈍った亡霊戦士達の首を
易々と
終わってみれば四体と一匹に何もさせず、ジュリアスの完勝だった。
「……なんだよ、その顔は」
戦闘が終わって皆がジュリアスの元に集まったが、ドーガだけが渋い表情して
いる。
「……"風の刃"はそんな長ったらしい呪文じゃないだろ」
ドーガの気に
ジュリアスは戦闘中、相手をおちょくっているというか侮っているというか
力量差に甘んじて遊んでいるように見えたのだ。それはとても許容できない、
魔術師失格も同然の立ち回りである。
「別にいいじゃねぇか。気分だよ、気分。ただの気まぐれさ」
……しかし、ジュリアスは意に介さない。
例え遊んでいるように見えようが、やり方を変えるつもりはない。
それに解説こそしないが、時にその遊びの部分が駆け引きや呪術や幻術を仕込む
「……ジュリアス。けがしてない?」
「ん? ああ、大丈夫さ」
猫を抱き抱えたガイアスが話しかけてくる。先程腕を噛み付かれたが、歯は
皮膚まで達していなかった。
"凍霜鎧"は類似魔法である
しない等)、より防御的に運用出来るよう改良されている。その特徴が幸いした。
「怪我したらいってね。なおすから」
「おう、有り難うよ。頼りにしてる」
ジュリアスはそう答えてからドーガに向き直った。
「……さて、と。ドーガ、これから明かりを消すが暗視の魔法は使えるか?」
「補助魔法は得意でもないが、それくらいなら使える」
「……ガイアス達は自前でなんとか出来るよな?」
「大地にいるならすべてわかるよ」
『この(猫)目をみたまえ。問題ないよ』
「それもそうか。じゃ、明かりを消すぞ」
そう宣言した後、ジュリアスが自分の肩口を素早く手で払う。すると彼の頭上に
漂っていた明かりは糸が切れたようにゆっくりと空に上っていき……溶け込むように
消えていった。
周辺が再び真っ暗闇になると、ドーガが呪文の詠唱を開始。
追いかけるようにジュリアスも続いて詠唱を開始する。
「其は想念と意志の力 奇跡を顕現する根源 我が両眼に暗闇を
「偉大なる三柱 勝利の女神の
給え 此方より彼方を見通し 一条の星明りから獲物を
"
双方共に呪文は完成し、成功する。
ドーガは一般的な暗視の魔法、ジュリアスは暗視に遠見を兼ねた神聖魔法。
「…………」
分かってはいたが、立て続けに魔術師としての力量差を思い知らされる。
当然だ、彼は世界最高峰の魔術師なのだから──自分にそう言い聞かせるのは、
「……なんだよ、俺が神聖魔法を使っちゃおかしいか?」
ドーガの視線に対して全く的外れなところを自ら突っ込むが、反応は
「……いや、別に。呪文が成功しているか確かめてただけだ。気にしないでくれ」
ドーガはそう言って首に巻いたマフラーを引き上げ、口元を
「ジュリアスが神頼みするのはめずらしいね」
『神頼みというのを心情的にしていなかったね。ジュリアスは』
「まぁ……昔の話さ。とっくに
そろそろ行こう、ばつが悪そうにジュリアスは出発を促した。
<後編へ続く>
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