第6話 -後編-

6B-1『人類に異常なし -後編-』

 ……一行は大魔孔を目指す。

 ジュリアスが先んじて行けるところまで進んでいた御蔭で、出発地点から

少し歩いただけで市街地跡を越えた。


 後はこの僅かに残った瓦礫地帯を抜ければ、爆心地まではほぼ何もない荒野。

 ……草木などはまともに生えていない。


 当時の探索者が書物に記載した通り、この地は当時そのままの歴史が保存されて

いるといっても過言ではない。普通なら考えられない事だ。


(天も地も呪われた領域──か)


 昔の人々が此処ギガントをそのように記録して嘆いたのも無理ないかもしれない。

 この状況を目の当たりにすれば。ドーガは思った。


 ──その間もジュリアスは先頭を歩きながら様子を探っている。


「……当然、何かいるよな」


 ジュリアスが呟いた。

 遠見で見た限りでは何体かの魔物が特に動きもせず、待ち構えているらしい。


「……何かいる? とすると、番人のようなものかな──」


「まぁ、そうなんじゃねぇかな。幸い、その番人同士の距離は結構離れてる。

援軍に来る可能性はあるが、さっさと仕留めれば囲まれる心配はない」


「そう簡単にいくか……?」

「いくさ。お前の手を煩わせる事はねぇよ、心配すんな」


 ジュリアスは戦闘を避けるという消極的な選択肢は選ばず、おそらく最短距離を

進んでいる。


 ……そうして直進すること、暫し。

 ドーガの視界にも人影が見えた。それも二つ。


 人間にしては大きすぎる。二体とも上半身は裸で毛皮の腰巻きに丸太を雑に

加工したような棍棒を握っている。これはおそらく……


 ──という事は、その前からジュリアスは魔物の正体を知っていたんだろう。

 果たしてあいつらはこちらに気付いているのだろうか……?


『待て、ジュリアス。あれが見えてるんだろう?』


『……巨人ギガスだな』

『エフ(F)・ギガース。かつてこの地に少数棲んでいたらしい亜人種の巨人族だ』

『エフ……? ああ、偽物エフね。細かいな』


 魔孔から生まれた魔物とは偽りの、生きとし生けるものの模造コピーである。

 本物と混同する場合、区別する為に名称の前後どちらかに"エフ(F)"※注(Fakeの

頭文字イニシャル)と付けるのが正式とされている。


『お前の魔術で遠距離攻撃出来ないか? ここからなら気付かれずに倒せるかも

しれない』


『……残念だが遠すぎるな。巨人の生命力は強い、どれも殺しきる威力にはならん』


 話している間も巨人から目を離さず観察しているが、依然としてその場から

微動だにせず、周囲の様子を窺うといった仕草もない。まるで彫像のようだ。


 この分ならもう少し近付けるだろうが──


『巨人の視力までは文献になかったな。あれがどの程度まで見えているか

分かれば……』


『関係ねぇよ。どちらかに仕掛ければもう片方にもすぐに気付かれる。どうせ

やっちまうんだ、下手な考え休むに似たりだよ。行こうぜ』


 ジュリアスは歩き出す。ガイアスはドーガを見たが、ジュリアスについていく

事を選んだ。ドーガも一人たたずむ訳にはいかず、その後ろに続く。


(俺の提案は正しい……魔術師として正しい筈だ。ジュリアスほどの術者なら

それも分かっている筈……なのに、ことごとく却下するのは単なる好悪なん

じゃないか……?)


 先頭を進むジュリアスの歩みは一定で、巨人相手でも臆する事はないようだ。

 無策……ではないとは思うが、強行突破に近いだろう。性格的にそうとしか

考えられない。最低限、先手は取るだろうが──


『よし、ここで止まれ』


 ジュリアスが念話と手振りで合図する。一同が立ち止まると、


『あいつらと目が合った。気付いたようだな』

『……どうする気だ?』


『当然、仕掛ける。お前達は此処で待ってろよ』


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