・第3話

3-1『世界の全ては主の肉体と精神から成る』

 ジュリアスが王都に来て数日。彼はゴートが下宿している宿の空き部屋、

同じ二階の一室を新規に借りていた。


 安宿とはいえ今のご時世、長期契約には誰かの紹介が必要だった。


 さらに言えば、どれだけ魔術師として優れていようが、ボロボロといって

差し支えない身なりでは借りれるものも借りれない。そして何より、当時の

持ち金はゼロ。論外である。一人では交渉以前の問題だった。


 野宿しながらの金策など考えたくもなかったジュリアスにとって、ゴートは

まさに恩人だった。


 これだけでも相当な借りを彼に作ったとジュリアスは認識していた……


*


 ──ジュリアス=ハインライン。自称魔術師。ゴート=クラースは僅かな期間、

面倒を見ただけだが何故か彼の弟子という事になってしまっていた。


 その事を知られたゴートは友人から厄介な頼まれ事をされる。

 友人の名はディリック=ディオード。通称ディディー。彼はゴートと同じ十七歳、

同時期に兵役に就いた同期生である。


 彼は冒険者に憧れていた。平凡に実家の漁業を手伝う人生も考えたが、どうせなら

挑戦したい。あわよくば成功したい。人並みの欲を抱えたごく普通の青年だった。


 ──きっかけは座学後の昼休み。ゴートは口を滑らせて、ジュリアスの存在を

明かしてしまう。するとディディーは目を輝かせながら迫ってきたのだ。


「なぁ、頼むよ、ゴート! ダメ元でさ、俺も一緒に……いや、見学だけでもさせて

くれないか!? 俺も魔法に興味あるんだよ、でもどうやって修行とか訓練とかしたら

いいかさっぱり分かんないしさ……見学とか出来れば、向き不向きとか……俺には

さっぱり向いてないって分かってたらスパっと諦められるじゃん!? だからその……

とにかく頼むよ、ゴート! 聞くだけでも! なぁ……!」


「あーもう分かった!  聞くだけ! 聞くだけだからな! 駄目なら諦めろよ……?」


 ディディーの剣幕に気圧されたゴートは口利きはするが結果は保証しないむね

了承してしまう。


 ──そうして、ジュリアスの部屋の前。


 気を重くしながら帰宿したゴートは伏し目がちに事情を話すと、彼は少し

思案した後、


「一晩待て」


 翌朝。部屋を出るなりジュリアスが顔を出し、


「次の日曜、会うだけ会ってやる。それから先は面談次第だ」

「えっ、引き受けるんですか!? ……頼んだ俺が言うのもなんですけど」


「俺なりに色々と考えて利用価値があるかも、とな。まぁ、それだけだよ」


「利用価値……?」


「ああ、だからといってそいつに魔法を教えると決まった訳じゃないから、

その辺はちゃんと注意しとけよ?」


「え、うん。分かった」


 ……何はともあれ、ディディーへの義理はこれで果たした。ゴートは安堵する。

 これから先は本人次第、という訳だ。

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