2-4『主の名はゲネシス』

 教会の外に出ると今まで聞こえなかった喧噪が戻っていた。少し先にゴートが

待っている。ゴートが彼を見て近付こうとした時、


「変わらねぇなぁ……」


 ジュリアスは独りごちる。ゴートが怪訝けげんな顔をすると、


「いや、昔と変わってないと思ってよ。俺は魔術師なんてやっちゃいるがその実、

粗暴で短気なんだ。その上、頭も悪い。折を見て直そうとはしてるんだが、結局

上手くいかなくてな。今なら丸くなった自覚はあるし、どうかと思ったんだが……

残念ながらあんまり変わってなかった。そういう話さ」


「……個人的には粗暴で短気って印象はないんだけど」


 別になぐさめる意図はないが、今までの率直な印象を彼に告げる。

 だが、ジュリアスは首を振り、


「……それがそうでもないのさ、これが。今のやり取りなんかがまさにそうでな、

気に入らない事がある、気に食わない奴をみると無意識に喧嘩を吹っ掛けるような

言動になる。それが魔術師として賢いと言えるか? ……ま、俺は先にも言ったが

頭が悪いし、だがね」


 大分落ち着いたのか、軽口を言ってジュリアスは笑った。……それから、


「ゴート、お前に頼みがある。もしもお前が同席していて俺がさっきみたいに

頭に血が上りそうになった時、その時はお前に俺を止めてほしいんだ。冷静に

なるように、ってな」


「ええっ!? そんなの無理だと思うよ……?」

「結果は問題じゃないんだ、一声かけてくれるだけでいい。それだけでいいんだ」

「それならまぁ……余裕があれば……」


「悪いが頼む。これから先、無用な舌禍ぜっかで余計な苦労を背負い込むのはいい加減、

卒業したいんだ。俺もよ……」


 そう言ってジュリアスは遠くを見る──と、


『顔見せも出来ない相手とは交渉できない、だったね』


 何処からか声がした。これは念話だ。それとなく周囲を見回すといつの間にか

雑種の猫が近くにいた。

 こちらをうかがうように腰を下ろして、じっと見ている。


 灰色に黒と白の斑点が混じった雑種の猫──その猫が、鳴いた。


『近いうちにまた会おう、ジュリアス=ハインライン。君の環境が落ち着いた頃に』


 そしてもう一度短く鳴くとあちらへと歩き出した。

 こちらにはもう、一瞥いちべつもくれない。


 ジュリアスも特に追わない、見つめるだけだ。

 ゴートが不思議そうに彼を見ている。


「何、振られただけさ」


 ジュリアスがゴートに言った。……猫の後ろ姿が、建物の陰に消える。



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