1-2『世界の名はミクロンと言う』

 世界の名はミクロンと言った。中央の大陸、海で分かたれた半身の上を

"理想の大陸"アルカディア・プレートと呼ぶ。


 その大陸の南部、二つの国に挟まれた緩衝地帯はかんぬきの国、スフリンク。

 北側は長大な山脈に囲まれ平野の東西は狭く、さらに中央には川。山麓さんろくから

緩やかに蛇行して海まで続く河川が領土を縦断している。南端の河口付近には

港湾があり、王都はそこに築かれていた。


 此処はスフリンクの北方、山間やまあいの小さな村。

 水田と畑の合間に民家がぽつぽつある程度の集落である。


 青年の名はゴートといった。ゴート=クラース。

 王都の郊外でパン屋を営む家庭の息子に生まれ、去年の秋、一年の兵役に。

 それからこの五月まで座学と訓練と研修を概ね順調にこなしていた。※注(この国スフリンク

には十六歳から十八歳までに一年間、健康な男女は兵役に就く義務がある)


 そんな折、今回は同期の皆々と各地駐在所の一斉点検並びに掃除など少々の

雑務を申し渡され、一泊二日の予定でそれぞれ散り散りになって活動している

ところ……なのだが。


 ゴートは早々に貧乏くじを引く。


 本来は三名で行く筈なのだが二名に病欠され、彼一人で赴く事に。

 もっとも、片方は同年代では乱暴者で有名なやから、もう一人はその取り巻き。

 彼としてはむしろ、いない方が心労なく気楽に取り組める。


 人手不足は時間で補えばいい、とゴートは考えた。

 そしてゴートは考え通りにまだ朝も暗い内に出発し、予定よりもかなり早い

時間帯から作業に取り掛かった。


 彼(ら)に申しつけられた内容は時間こそかかるが、ほとんどは単純作業である。

途中からは村の人も少し手伝ってくれた御蔭で予定よりも捗ったくらいだ。

 なんなら、こうして散歩がてら見回りする余裕すらある。

 ……そうして村はずれから山道へ入る道すがら、背後から呼び止められたのだ。


 ──その男は、ジュリアスと名乗った。

 これこそがゴートにとっての貧乏くじであったかは、まだ定かではない──


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