天性の魔術師

てぃ

・第1話

1-1『世界の名はミクロンと言う』

 現在・過去・未来に於いて勝る者なし。史上最高の魔術師。現実的には

二番手どころか三番手止まりの評価であったその男は──にも関わらず、

ごく短い期間、そのように自称した。


 ……世間に名乗った訳ではない。


 まずは訣別けつべつした人物に対して決然と述べたのだ。


 ──史上最強の魔術師に対して。


 懐かしい。あの瞬間には今や失った激情が、熱が伴っていた。肉体に

血潮が流れて生きていた。あの時代の生こそ我が人生だったと述懐する。


 ……そして。


 今この時に甦ったのは意味が……いや、意図があるのだろうと考える。


 あれほどまで荒ぶり、昂っていた情熱はすっかり醒め切り、生前の事は

伝説も残らず風化して歴史の闇に呑まれた。過去を知る者は最早いない。


 大地という揺り籠の中で地上の出来事を夢見ながら過ごしていた我が身が、

今更自らの意志で世に出るなども有り得ないだろう。


 となれば……と、邪推する。尋常ならざる意思が干渉してきたか?


 再び人の身で現世に投げ出された今、賽は既に投げられている。

 風に吹かれ、このように座して考え込む間にも時は無情に進んでいる。

再誕したなら猶予は無限ではないのだ。


(だが……)


 そう悲観するほどではあるまい。過去から復活した者は時流で変化した

常識等についていけないものだが、自分に限ってそれはない。

 膨大な夢見ゆめみの追体験の御蔭か、知識だけなら今世の人々より詳しいかも

しれない。


 それを上手く使えれば、その上で──


「早速、天の配剤か」


 ──時は太陽の傾きから察するに、昼下がり。近くを通る人の気配がある。

 遠目から、を眺めた。


 青年の顔つきはやや幼く、体格は同年代より痩せ型に見えるせいか、どことなく

頼りない印象を受ける。服装は普段着のようではあるが、仕事着とは言いづらい。


 この村の者ではないのだろう、その決定的な証拠に場違いな物を──彼は長剣を

腰に帯びていた。それは簡素な剣で、木鞘には国章が焼き印されている。


 ……仕組まれた運命にわざと翻弄されるのも悪くない。

 故に彼は、気安く声をかけた。

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