花氷
尾八原ジュージ
花氷
氷の魔女が死んだ。
魔女が死ぬと同時に、豪奢な城も強力な使い魔たちも、何もかもが溶けて消えてしまった。水浸しになった丘の上には、たったひとつ、巨大な氷の塊が残された。
青い氷の奥を透かしてみると、どうやら中に何かがあるらしい。海をも凍らせたおそろしい魔女は、最後の呪いで一体何を封じたのか。誰もがそれを知りたがった。
封印の解除は、災いをおそれてゆっくりと、慎重に行われた。まず百人の魔法使いが調査を行った。百年にわたる調査を経て、どうやら氷の中にあるのは危険な魔物や呪具のたぐいではない、ということがわかった。そこで百人の魔法使いがふたたび百年の歳月を費やし、ようやく氷の魔女の呪いを解くことができた。
百人の魔法使いが呪文を唱え終わると、鏡のような表面に大きな亀裂が走った。氷塊は音を立てて崩れ始め、水晶のような破片が辺りに飛び散った。やがて崩壊が収まると、見物していた人々は、我先にと砕けた氷の元へ駆けつけた。
氷の中心には、野の花を集めた素朴な花束がひとつあった。今朝摘んだように瑞々しかったそれは、集まった人々が見守るなか、急速に黒く萎れ始めた。
氷塊の中身はそれだけだった。花束の由来は誰も知らない。
花氷 尾八原ジュージ @zi-yon
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