初めての魔法
そこには黒・い・髪・に黒・い・瞳・を宿した男が転んでいた。
(ここ、何処だ? 森? なんで……いや、俺って車に轢かれて死んだんだよな? てか、体が重い……それに単純に膝が痛いんだが……なんで俺こんな森で俯けで寝てるんだよ。車に轢かれた時に森まで吹っ飛ばされたのか!? そう考えればなんとなく近くに森があったような無かったような……)
その男ーー釜土星穏かまつちしおんはいつまでも森の中で俯けになっている訳にはいかないと思い、立ち上がろうとするが、膝が痛いこともありバランスを崩しそうになったので、ゆっくりと立ち上がり、辺りを見回す。
(道が見えない……吹っ飛ばされたんだとしたら俺が軽すぎるし、こんな膝の痛みだけなんておかしいよな? まさか異世界転移してたり? 仮にそうだとしても膝が痛いのはおかしいか?)
色々と考えていると後ろから枝を踏み折るような音が聞こえてきたので星穏はなんだと思い振り向く。
「グルルルル」
振り向いた先では角の生えた狼が唸っていた。
(狼!? てか角生えてる!?)
星穏はすぐに狼の対処法なんて知らないので、すぐに狼がいない方向へ走り出した……は良かったが、走り出そうと足に力を入れ、一歩を踏み出すとすぐに転んだ。
星穏は森を歩いたことが無いという理由と、単純に膝が痛いという理由で転んでしまった。
「ヘブッ」
そんな間抜けな声を出しながら。
狼はそんな星穏を食べるため近づいてくる。何故か間抜けな星穏を警戒しているのかゆっくりと。
(やばいやばいやばい……角生えてるし、いやいや、今はそんなのどうでも良くて、死ぬって! まじで死ぬ!)
考えて考えて考えるが、どうすればいいか分からない。
そんな星穏に向かって狼が口を広げながら飛びついてくる。
「うわっ」
星穏は身体をひねり勢いで転がり狼を避ける。小石などが体にあたり痛みがあるが、そんなことを気にしている暇は今の星穏には無かった。
「ヴぉぉぉ」
避けられたことに怒り出したのか、狼が咆哮をあげると角に電撃が浴びていき、ビリビリしだした。
星穏は終わった、と思った。どれだけ考えても生き残れるビジョンがわかないから。それでも死にたくは無いので考える。
(ただでさえピンチだったのになんだよあのビリビリ! 魔法ってやつか? やっぱりここは異世界? だったら俺も魔法使えたりしないか? そんな奇跡起きるわけないか? いや、どうせ奇跡が起きなきゃ助かりそうもないし、賭けるしかない。それに、なんとなくだけど使える気がするんだよな)
狼が確実に死ぬように、死ななくても動けないように、と辺り一帯が凍るように想像しながら星穏は言う。
「凍れ!」
そう一言星穏が発すると、髪の色が白になり、瞳の色が青に変わったこと以外は星穏の想像通り……いや、それ以上に辺り一帯が凍る。木のてっぺんまで。
何故凍るような魔法を最初に試したのかは星穏にはわからなかった。ただ、これならいける、と思ってやってみたら使えたというだけだ。
「はぁ……はぁ……まじかよ」
助かったという安堵感から星穏はその場に横になる。
そして星穏は他の魔法が使えないかを試してみることにした。
「燃えろ」
周りが凍っていることから、このままじゃまずいかもしれないと思った星穏は炎の魔法から試してみたが、出来なかった。
ならばとは他の魔法も試す。
「水よ出ろ」
「風よ」
「雷よ」
「爆発」
色々と試した星穏だが、全部何も起きなかった。
(んー、どうやって周りの氷を溶かそう……時間が経てば溶けるか? ……なんとなくだけど溶けない気がするんだよな)
星穏の勘は当たっており、星穏が凍った部分を消すようにイメージをしない限りは消えない。現在の星穏は溶かそうとしたりはしているが明確なイメージはしていないので、凍った部分が溶けたりすることは無い。
氷神の異名を持つ男は記憶喪失になった瞬間に前世の記憶を思い出した シャルねる @neru3656
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