#24 モフモフは正義、癒し効果抜群ですぞ!

「あまりにも苦戦してるようだったから独断で強化魔法をかけちまった。迷惑だったらすまない」

「お気になさらず。おかげで数的不利でも魔物を倒せました」

「俺から見れば大分危うい勝負に見えたがな。引っかき傷もそこらじゅうにできているようだし」


 ナイトグリズリー達を撃退し、安堵の表情を浮かべるガルベナード。彼のもとに部下のベルクが歩み寄ってくるが、怪我と出血がひどいせいでその足取りはどうにもふらついていた。


「心配には及びませぬ。拙者が傷を負った分、主君とマリナ殿を護ることができたのならば本望ですぞ」

「お前の気持ちは分かったが、その状態で木材を城まで運ぶのは無理があるだろ――ちょうど聖女もいることだし、マリナに傷を治してもらうか」


 ベルクは気丈に振舞うものの、上司のガルベナードとしては気が気でない。とりあえず負傷した部下を手近なところに腰かけさせ、怪我の治療といきたいところだったが、肝心の回復役は眠ってしまっている。これには魔王も呆れ顔だ。


「……とは言ったもののマリナの奴、すっかり寝ちまってるな。手荒な方法で起こしたらまた魔物に気づかれちまいそうだし、どうすりゃいいんだこれ」

「それならば拙者に妙案がありますので、魔王殿はそこで見ていて下され」


 そんな中、ベルクはそう言うとマリナの隣まで近寄り、自身の尻尾を使ってマリナの頬を撫で始めた。ふさふさの毛が生えた自分の尻尾なら、最小限の騒音で彼女を起こせると考えたらしい。


「……なんかお前の尻尾が羨ましく思えてきたんだが」

「同じ魔族と言えど、姿かたちは千差万別。拙者の尻尾はブラシのように扱うことができ、魔王殿の尻尾はランタンを吊るすのに都合がいい。形が違えば利点も違ってくるのでございまするぞ」


 焼きもちを焼くガルベナードに対して、ベルクは彼を諭すように返事をする(表現の仕方はだいぶ独特だったが)。すると、


「言いたいことは分かったが、俺もベルクも夜目が効くからランタンは要らないだろ。今回はマリナがいるから持ってきたが」


 ガルベナードはそう言いながら、先ほど言われた通りにランタンの持ち手を自身の尻尾に引っ掛け、その場で持ち上げてみせる。ランタンの灯りに照らされ、尻尾でマリナの顔を撫でているベルクの姿が暗闇の中にくっきりと浮かび上がった。

 と、その時、


「ん……おはよう、ございます……?」

「ようやくお目覚めか。寝ぼけたせいで喋り方がグリージュみたいになってるぞ」


 ランタンの灯りで目が覚めたのか、マリナが起き上がる。ネプリの実の催眠効果がまだ続いているのか、やはり眠たそうな表情をしている。


「前置きなしに申し上げますが、マリナ殿が寝ている間魔物がやってきまして、拙者が追い払ったはいいものの怪我を負ってしまったのです。マリナ殿なら傷を治せると聞いたのですが、お願いできますかな?」

「……分かりました。では怪我をした部位を見せてください」


 マリナは起きて早々ベルクに言われるがまま、傷の手当てに取りかかる。彼女がベルクの傷口に手をかざすと、その周りに蛍に似たやわらかな光が集まってきた。光は傷口を覆うようにしばらく密集した後、何事もなかったかのように霧散していく。そうして光が消えた後には、傷を負う前と変わらない艶やかな毛並みがあった。マリナは他の傷口にも同じように処置を施していくが、集まってくる光の幻想的な光景にガルベナードとベルクはただ息をのんで見守っていた。





「終わりました。これで傷はすべて治ったはずです」

「おお、確かに見た目が元通りなのに加えて痛みも消えておりますぞ! 聖女の称号は伊達ではなかったということですな」


 マリナが言い終えると同時にベルクはその場で立ち上がり、体の各部位を曲げ伸ばししてみる。その動きは非常に滑らかで、先ほどまで怪我をしていたのが噓のようだった(さすがに切り裂かれた服はマリナも直せなかったためボロボロのままだが)。


「しかも先ほどむしられた毛まで治して頂けるとは……これでまた拙者の毛並みを癒しに活用できる故、心から感謝いたしますぞ」

「……お前の毛がフサフサで手触りがいいのは分かったが、その下の筋肉が硬すぎて嫌われても俺は知らないからな」


 上機嫌になったベルクの発言に、ガルベナードはひねくれた言葉を返す。嫉妬の感情もないわけではないが、彼の体毛の手触りの良さは魔王のお墨付きと言えよう。


「ところで、魔王様のほうは怪我はありませんか?」

「俺か? 俺は翼を引っかかれたくらいだが……まあ治したければ好きにしろ」


 マリナは先ほどと同じように、ガルベナードが負った傷も治していく。治療をすることで何かデメリットが生じるわけでもないので、ガルベナードもここはマリナがやりたいことをさせるのが良いと考えたらしい。


「はい、治りました」

「ん、ありがとな。話は変わるが、休憩もこのくらいにして素材集めを再開しよう。日没までに城に帰らないとアルメーネに怒られるかもしれないからな」


 傷の手当てが終わったガルベナードはそう言って立ち上がり、再び素材を集め始める。それを見たマリナとベルクも、それぞれの持ち場に戻っていくのだった。

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