#23 魔軍六座のベルクが1対3のハンデ戦を仕掛けてきた

「どうやら人間以外の招かれざる客も来ちまったみたいだな」


 極夜の森で素材を集めている間、周囲に生息するナイトグリズリーを呼び寄せてしまった魔王一行。加えてこちらはベルクのカロリーバーのせいでマリナが眠ってしまっており、迎撃するにしても彼女を護りながらというハンデ戦を強いられることになる。


「随分と厳しい状況に追い込まれちまったが、どうするよ」

「ここは拙者が対処いたします! マリナ殿の護衛は任せましたぞ」


 ガルベナードはベルクに意見を問うが、当の本人は戦局などお構いなしに敵陣へと突っ込んで行く。一応サバイバルナイフと伐採用の斧を武器として持っているようだが、どちらも本来の用途外の使い方をすることになるので不安はぬぐえない。


(ベルクの奴、また適当に突っ込んで行きやがって……いくらこっちが強くても数で押されたら負けることもあるのにな)


 部下の様子を後方から見守るガルベナードも、苦々しい表情を浮かべている。ナイトグリズリーはベルクが飛び出してきたところに三匹が集まっていたが、反対側から間合いを詰めてきた一匹は先ほどの位置から動かずにじっとしていた。どうやら向こうの三匹とは別行動で獲物を仕留める作戦らしい。


(仕方ねぇ、足止め程度の妨害は俺がやっておくか)


 ガルベナードは単独で好機を待つナイトグリズリーを睨みつけ、


「サンダーボルト!」


 と、魔物の足元めがけて雷の呪文を放つ。しかしナイトグリズリーは前方へ素早く移動して魔法をかわし、勢いそのまま鋭い爪を振りかざしてガルベナードに襲い掛かった。ガルベナードは咄嗟に自身の翼を前方に掲げ、盾代わりにしてナイトグリズリーの攻撃を受ける。そしてガルベナードは間髪入れずにナイトグリズリーの腹に蹴りを入れ、後方へ吹っ飛ばす。と言っても、格闘術は専門外なのでマリナの身長と同じくらいしか飛ばせなかったのだが。


(ここで呪文をぶっ放したらダークトレントにぶつかるかもしれねぇが、弱腰になってたら奴も仕留めきれねぇ……ここは慎重に決めるか)


 ガルベナードはそのように意を決すると、眼前のナイトグリズリーが起き上がってくる間に呪文を唱え、


「ロックプレス!」


 と、ナイトグリズリーの頭上に巨大な岩石を落としてぺしゃんこにする。仮に魔物が生きながらえていたとしても、これでしばらくは起き上がって来ないだろう。


(やっべ、軽く足止めするはずが本気で相手しちまった。まあベルクは手柄を取られたくらいで怒る奴じゃないけどな)


 ガルベナードは重石によって潰されたナイトグリズリーの様子を見ながら、心の中でそうつぶやく。しかし個人の戦果がどうであれ、まず生き残ることが大事なので彼の判断は間違いではなかったと言えよう。

 そんなガルベナードが野営地の反対側で戦っているベルクに目をやると、


「氷天撃!」


 彼は手にした斧を掲げながら、三体のナイトグリズリーによる攻撃を耐えていた。彼の身体は既に傷だらけで、足元に滴り落ちた血が溜まっているのがガルベナードの立ち位置からでも確認できた。


「雷鳴斬!」


 ベルクも相手の隙を狙って攻撃を繰り出すが、試合を動かす決定打にまでは至らない。ナイトグリズリーを一体振り払えば、その隙に別の一体が襲ってくる。無限ループのように繰り返される攻防は、時間が経つにつれて確実にベルクの体力を奪っていった。


「閃熱豪斧!」

(この調子だと長引きそうだな……ちょいと手を貸してやるか)


 さすがのガルベナードも痺れを切らしたのか、その場でベルクのほうを向き呪文を唱える。そして、


「ライズパワー!」


 ガルベナードはベルクに向けて攻撃力強化の魔法を放つ。ベルクの足元にオレンジ色の魔法陣が現れ、彼の身体からオーラが溢れ出す。攻撃力のバフが付与されたことはおそらくベルクも気づいているはずだ。

 そして、


「暴風大旋斬!」


 ベルクはその場で勢いよく旋回し、ナイトグリズリー達を薙ぎ払う。魔王印のバフが乗った一撃はすさまじく、魔物たちは後方まで吹き飛び、直立していた木々に激突する。

 しかしナイトグリズリーがぶつかったのは普通の木ではなくダークトレント。激突されたことで怒り心頭の彼らは枝や根を使ってナイトグリズリーを捕らえ、そのまま両者の殴り合いが始まってしまった。ベルクは運良くダークトレントの射程外にいたので襲われることもなかったが、この調子だと彼らの眼中に入ることもないだろう。


「まあ、何はともあれこれで一件落着ですな」


 ベルクがガルベナードのほうを振り返り、(人間には判別が難しいがおそらく)笑顔でそう言う。かくして、彼らのナイトグリズリー退治は成功で幕を閉じたのだった。

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