#20 アルメーネでもできるエビルヴァイン退治
「……着きました。おそらくこの扉の向こうにエビルヴァインがいます」
魔王城の廊下。数ある個室の中のひとつを前に、アルメーネは腰に巻かれているツタ状の通信機(仮称)を使ってグリージュに話しかける。
「わたくしがカウントダウンを始めますので、ゼロになると同時にツタを引っ張ってください」
『アルメーネ様は…………鞭を使って戦うのですか…………?』
今まさに戦いが始まろうとしているのに、グリージュからの返事の内容は相変わらずちぐはぐだ。
「わたくしも戦いのときは武器くらい使います。そもそもエビルヴァイン相手に丸腰かつ一対一で勝てるのはガルベナード様くらいかと思われます」
アルメーネは冷静に返答しながら、普段丸めた状態で腰に下げている鞭を右手に取り、左手で部屋の扉の取っ手を掴む。
『エビルヴァインは共食いもする…………だから、ひとつの部屋には一体しかいないはず…………』
「と、とにかく今から扉を開けます! 5,4,3,2,1……」
グリージュからまたしても優先度の低い内容の会話が返ってくる。しかしアルメーネはそれに惑わされることなくカウントダウンをはじめ、
「ゼロ!」
と言い切ると同時に、勢いよく部屋の扉を開ける。彼女の予想通り、扉の向こう側からはエビルヴァインが触手のようなツタを伸ばし、アルメーネを捕まえようとしてきた。
しかし同じタイミングでグリージュがツタを使ってアルメーネを勢いよく引きずったため、標的を掴もうとしたエビルヴァインの触手は空を切る。引っ張った力が強すぎたせいでアルメーネは廊下の真ん中で尻餅をついてしまうが、エビルヴァインに捕縛されるよりはずっとマシだった。
しかし獲物を捕らえ損ねたエビルヴァインも諦めが悪いようで、再び触手を伸ばしてアルメーネのほうへ迫ってくる。それに対して、
「エアカッター!」
と、アルメーネは呪文を唱え、風の刃でエビルヴァインの触手を輪切りにする。先端を失ったエビルヴァインの触手はうろたえるような動きを見せた後、元いた部屋のほうへ後退していく。さすがに触手を切断されてしまっては、エビルヴァインとしても分が悪いのだろう。
一方のアルメーネはこれを好機ととらえ、エビルヴァインの本体がいる部屋の中へと入り込む。襲い来る触手をエアカッターで次々と切り刻み、残るは切り株のような見た目になった本体だけだ。
「ファイアバレット!」
アルメーネはエビルヴァインの根元めがけて炎の球を放つ。魔法弾は標的に命中し、たものの、仕留めきるにはまだ火力が足りない。エビルヴァインは表面が焼けた短い触手をその場でうねうねと動かしている。アルメーネは意を決して大技を発動すべく、呪文の詠唱に入る。
「奈落より生まれし闇の力よ――今ここに集いて、あまねく万物を滅ぼす悪夢と為らん」
アルメーネが呪文を唱え始めると同時に、エビルヴァインの根元に黒紫の魔法陣が展開される。そして、
「ナイトメアバースト!」
アルメーネが呪文を叫ぶと同時に、魔法陣の中心部から闇を凝縮したようなドームが現れ、エビルヴァインの株を飲み込む。そのままドームは少しずつ体積を拡大していき、両端が部屋の壁に到達すると同時に爆発した。
「な……なんとか撃破できました……」
闇のドームが完全に消滅し、爆心地に黒く風化したエビルヴァインの残骸だけが残された部屋。アルメーネはほっとしたのかそう言い、ひとり床に座り込む。
『お疲れ様です…………』
「グリージュ様もありがとうございます……といってもまだ最初の一体を倒しただけで、まだまだ駆除対象は残っているんですけどね……」
グリージュがアルメーネに労いの言葉をかける。それを聞いてグリージュにしては珍しく状況にあった話をしているなと思ったアルメーネだったが、
『さっきの戦い…………鞭を使わなかった…………?』
「言われてみれば、使ったのは魔法ばかりで鞭の出番はありませんでしたね……縄の代用品として動きを封じるのに使うかと思ったのですが」
と、続いて出てきた言葉はやはり的外れで、結局いつものグリージュに逆戻りしてしまったのだった。
「ところでエビルヴァインから触手みたいなツタが沢山とれたのですが、これの処分はいかがいたしましょう……?」
『それは中庭の肥料に使います…………今から回収しに行くので、その場でお待ちください…………」
エビルヴァインの残骸の処理に困っていたアルメーネに、グリージュが答える。しばらくするとアルメーネが先ほど通ってきた廊下の方角から新たなツタがするすると伸びてきて、エビルヴァインの触手を先端部分で器用に掴んで中庭へと持ち帰っていった。アルメーネは立つ気力もなく、しばらくの間そこに座り込んだままグリージュの様子を見守っていた。
その後もアルメーネはエビルヴァインの駆除を続けたが、作業が終わるころにはすっかり夕暮れになり、あまりの疲れに夜は自室に戻ってすぐに寝落ちしてしまったのだった。
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