#19 潜入作戦は命がけ
(はぁ……これではどうにも気が重くなります……)
ガルベナードとマリナが去り、アルメーネとグリージュのふたりきりになった魔王城の中庭。どちらも他者を貶めるような性格ではないが、いかんせん片方が極度の口下手なせいで気まずい沈黙が続く。
「やらないのですか…………? 城主様の頼み事…………」
アルメーネがため息をついている横で、グリージュがつぶやく。
「それは……やらないといけないのは分かっていますが、何しろ不意打ちとはいえガルベナード様を苦境に追い込んだ魔物が相手なもので……」
アルメーネは気弱そうに答える。
今回の駆除対象であるエビルヴァインは、生き物を発見するとツタを伸ばして拘束する習性がある。したがって対峙するときはツタの動きを読んで的確に避けないと、相手に戦いの主導権を明け渡してしまうことになる。その後どうなるかは先日のガルベナードが実証済みで、アルメーネは昨日の上司の二の舞になってしまうことをこの上なく恐れていた。
「それなら…………グリージュが、一肌脱ぎます…………」
(ひとはだ脱ぐって……グリージュ様は一定何をしようとしているのでしょう……? そもそもグリージュ様にとっての肌がどの部分なのかもわからないのですが)
自信なさげな同僚の様子を見て、グリージュが言う。アルメーネは言葉の意味が分からず、怪訝そうな顔でグリージュの顔を見上げる。エビルヴァインの攻略法を知っているような口ぶりのグリージュだが、果たしてそれは本当なのだろうか。
「百聞は一見に如かずです…………セーフティーバーはこちらで操作するので、お手を触れないようお願いいたします…………」
「へっ……?」
セーフティーバーなどという聞き覚えのない言葉と、グリージュの行動になんの関係性も見出せないこととで戸惑うアルメーネ。そうしているうちにグリージュはアルメーネの腰にツタを巻き付け、彼女の身体を空高くまで持ち上げる。
「ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
唐突な絶叫アクションの始まりに、アルメーネは思い切り悲鳴を上げる。しかしツタを操るグリージュは気にも留めない。
「ちょっと待ってください! こんなことをしてわたくしが怪我でもしたらどうするつもりなんですかぁ!?」
そのままグリージュはアルメーネをツタごと屋根に空いた穴から魔王城の中へと放り込む。そうしてアルメーネは玉座の間へと連れ出され、あろうことか魔王が座るはずの玉座の上に不時着してしまう(部屋に誰もいなかったのは不幸中の幸いだったが)。安全のためツタはアルメーネの身体にしっかりと巻かれたままだが、とても良い子が真似して許される所業ではない。
「ま、まさかグリージュ様まで天井に空いた穴から城内に入るとは思っていませんでした……それとあそこまで高く持ち上げてしまっては、わたくしのスカートの中が見えてしまいます……」
恐れ多くも玉座の上で受け身を取っていたアルメーネはゆっくりと体を起こし、(ここから中庭まで声が届くはずもないのだが)グリージュに苦情を言う。しかし、誰もいないはずの玉座の間で、何やら声が聞こえてくる。
『どうも、グリージュです…………無事に潜入できたようですね…………』
「潜入も何も、ここは我々の本陣です。それと天井から謎のツタが垂れ下がっている時点で、建物内に不審者が入ってきたことがバレてしまいます……」
声の発信源は、アルメーネの身体に巻いてあるツタについた葉っぱだった。おそらくは魔法を使ったのだろう、グリージュは離れた場所にいる相手と会話できる設備を開発していたらしい。ツタを通じて会話ができると察したアルメーネは、疲れたような声色で返事をする。
『何はともあれ潜入に成功したので、次は
「そのターゲットに捕まったら一巻の終わりになりかねないのですが、わたくし達だけで本当に勝てるのでしょうか……?」
『それなら、初めから捕まらなければよいのです…………合図を下されば、それに合わせてこちらで引っ張り上げますので…………』
「そういった作戦はわたくしが中庭にいる時に言っておいてください……」
その後も二人は会話を続けるが、相変わらずグリージュの会話は独特すぎてアルメーネの疲れは溜まる一方だった。アルメーネはあきらめて玉座から立ち上がり、部屋を後にしていった。
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