#18 魔王城美化作戦、始動(?)

「完成、しました…………どうぞ」

「わぁ……とても可愛らしいですね。部屋に飾るのもよさそうです」


 「魔軍六座」の一角にして、魔王城の中庭を見張る役割を担うグリージュ。彼女は上司のガルベナードがタマゴを執務室へ運びに行っている間、木の枝を編み込んで小鳥の模型を作っていた。マリナも完成品を気に入ったようで、手に取って様々な角度から眺めている。


「グリージュ様には他にも、衣類を入れるカゴなどを作っていただいてます。使い勝手がいいので、本当に重宝させてもらっていますわ」


 アルメーネも笑顔でふたりの様子を見守っている。

 と、その時。


「戻ったぞー」


 ガルベナードが声を上げ、城の見張り塔から翼を広げて中庭に降りてきた。


「さっきと来た場所が違う…………城主様は、手品が使えるのですか…………?」

「手品じゃなくて、別の経路をたどっただけだ。あんなのを手品扱いされたら、今頃魔族領は手品だらけで宇宙の法則が乱れてるぞ」


 しかし戻って来るや否や、グリージュの下手すぎる会話に付き合わされてしまう。


「さてと、冗談はこのくらいにしてグリージュに二つ目の用事だ。この城に張り巡らされた罠――もといエビルヴァインの撤去を手伝ってほしい」

「罠…………? それを取り払ったら、城じゃなくなってしまいます…………」


 ガルベナードはグリージュに用件を伝えるが、やはり会話が噛み合わない。平行線をたどるように、魔王と立ち木の応酬は続く。


「それは単なるお前の基準だろ。確かに城は防衛のための建物だが、少なくとも俺が魔王になってからは戦いなんて起きていないし、罠だらけの設備でマリナを歩かせて怪我をさせるわけにもいかない。それだったら仕掛けがないほうが楽だろう?」

「わからない…………グリージュ、城の中、知らない…………」

(中庭から動かない奴に聞いた俺がバカだった……!)


 そうしてグリージュに(おそらく偶然だとは思うが)正論をかまされたところで、ガルベナードは頭を抱える。


「と、とにかく話を戻すが、これからアルメーネが魔王城のエビルヴァインを駆除する。その作業はひとりだと時間がかかるから、グリージュも手伝ってやってくれ」

「はい…………グリージュに、できることなら」


 ガルベナードが改めて懇願し、グリージュも了承する。上司の言っている内容はほぼ同じなのに、一度目で了承できないのは考え物だが。


「その言い回しですとわたくしひとりが作業するという意味になるのですが、ガルベナード様はその間一体何をされるおつもりなのでしょうか……?」

「俺は屋根に空いた穴をふさぐ作業をする。今日はまだ平気だが、雨が降ってきて城内が水浸しになっては困るだろう?」


 上司の言葉に引っ掛かりを感じたのか、アルメーネが質問をする。それに答えるガルベナードとしては、表向きにはアルメーネが人間領に遠征している間にゆっくりしていた分、彼女にはきっちり働いてもらおうという魂胆らしい。しかし、


「確かに雨漏りは困りますけど、それって要するにガルベナード様が嫌いな作業をわたくしに押し付けているだけじゃないですかぁ~……」


 とアルメーネに本心を見抜かれ、「チッ、バレたか」とガルベナードは舌打ちする。といっても、彼の表情を見る限りたいして反省していなさそうなのだが。



「魔王様、私は何をしていればいいでしょうか……?」

「マリナは俺と一緒についていってもらう。途中で魔軍六座のひとりとの顔合わせも済ませられるからな」


 ここで半ば放置されかけていたマリナが会話に参加する。ガルベナードはマリナの隣まで歩み寄りながら答えるが、


「うぅ、マリナ様ばかりガルベナード様と一緒に居られてずるいです……」


 と、上司の行動を不愉快に思ったアルメーネが乱入してくる。そんな文句たらたらの部下に対してガルベナードは鋭い視線を向け、


「アルメーネ、お前は魔族の責務を全うしろ」


 と言い放つ。そしておもむろにマリナを抱きかかえ、背中の翼を広げて飛び立っていってしまった。


(また逃げられてしまいましたぁ! しかも飛んで行った方向から考えると、ガルベナード様が向かっていったのは修練場……いくらわたくしでも入口の扉に女人禁制と書かれている場所まで追っていく勇気はありませんわ)


 一人残され、呆然とするアルメーネ。グリージュはその隣で静かにたたずんでいる。魔王城の中庭は、しばらくの間沈黙に包まれるのだった。

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