門番の好意で

 「おい坊主、そろそろ起きな!もうすぐ俺の交代の時間だ。見つかると俺がまずいからな」


 そう言いながら、門番は手加減なしに俺を揺すって起こした。


 「ありがとうございました。昨夜はぐっすり眠れました」


 「それは良かった。そんなガリガリじゃあ、飯も食えてないんだろ?スープを作ったから食べて行け」


 囲炉裏の鍋から昨日のマグカップにスープを入れて、俺に差し出してくれた。前世でも一人暮らしを始めてから、こんなに優しくされた事は無い。マグカップを受け取りながら目に涙を浮かべてしまった。


 「頂きます、あちっ!」


 「慌てなくても、もう少し時間はある。ゆっくりたべな」


 「美味しいです。美味しいです」


 「そうか、それは良かった」


 そう言って、門番は優しく笑ってくれた。髭面なのに、髭面のクセに。その道の人ならギャップ萌えってやつだ。


 「気になったんですけど、右脚はどうしたんですか?痛いんですか?」


 「ああ、騎士団に勤めてた頃に魔獣退治に行ってな、その時に右膝を痛めたんだ。その所為で騎士団を退団しなきゃいけなくなって、団長の薦めで門番に転職したんだよ」


 良い話を聞いた。俺は借りを作りっぱなしだとストレスを抱えてしまう性分だった。うんうん。今、借りを返しておこう。

 食事の途中だがスプーンを置いて立ち上がると、門番の前に進み出て、右膝に手を翳し『ヒール』と暗唱する。そしてまた席に着き、残りの食事を再開した。


 「どうしたんだ?」


 門番は不思議そうな顔で俺に問いかける。


 「右膝にヒールを掛けときました。もう脚を引き摺る事も無いと思いますよ。…ふぅ、ご馳走様でした。美味しかったです」


 「え?どう言う事だ?」


 「素朴ですけど、素材の味が活かされていて、とても美味しかったです」


 門番は立ち上がると、


 「味の話じゃねえ、ホントだ、痛くねえ」


 「昨夜、泊まらせて貰ったお礼です。俺、プリーストなんです」


 俺の返事を聞くと、門番は顔を曇らせた。悩んでる様だ。


 「坊主、薦められないが、教会へ行くか?一生教会から出られなくなるかも知れないが、死ぬよりはマシだ」


 「教会ですか?」


 すると門番は教会がどんなに悪どい所か聞かせてくれた。でも、死ぬよりはマシじゃないかと。


 「ありがとうございます。でも、せっかくですが教会には行きません。もう少し自分でどうにかしてみます。どうにもならない時は教会に行ってみます」


 俺がそう答えると、門番はもぞもぞポケットから何かを取り出し俺の前に出した。


 「これは治療費だ。少ないが、今、俺の持ってる全財産だ。金は持ってるに越した事はねえ。受け取ってくれ。そしてなあ、絶対に自分がプリーストだって秘密にしておけ。プリーストは金の成る木だ。プリーストだとバレると誘拐されるからな。絶対だぞ」


 「はい、分かりました。恩返しの積もりでしたが、お金もありがたく頂きます」


 「うん、それで良い。これからどうするんだ?」


 「ここだと寒いので、南に向かおうと思います。その前に準備をしたいので、ゴミ置き場の場所を教えて頂けませんか?リペアのスキルを持ってます。旅の支度をしたいのですが」


 毛布を見せながら、ゴミ置き場の場所を聞いてみた。


 「どおりで良い毛布を持ってると思った。そうか、そんなスキルを持ってるのか。じゃあ、そろそろ交代の時間だから、交代したら俺が案内してやる。出てすぐの噴水の前で待ってろ」


 「いいえ、場所を教えて貰えれば自分で行きますから」


 「子供なんだから甘えろ。そうだ!そんなスキルを持ってるなら、古くてボロボロだけど、俺が騎士団に居た頃に使ってた遠征道具をお前にくれてやるよ」


 「そんな悪いです」


 「そんな遠慮する程の物じゃない。一昔前のボロボロの道具だ。要らなくなったら捨てりゃ良いさ」


 「そうですか?甘えちゃって良いですそういうか?」


 「ああ、良い、良い。それで治療して貰った借りも無しで良いな?」


 笑顔でそう言う門番を見て、『ああ、この人も俺と同じ性分なんだな』と。


 「はい、では甘えさせて貰います」


 「ああ、じゃあ早速だが、ここから出て噴水の前で待っててくれ」


 「はい、じゃあ待ってます」


 毛布を担いで門番小屋を出て、噴水へ向かった。まだ早朝なので寒くて毛布にくるまって待つ事にした。


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