第2話
朝ごはんも終わり、ニシキが出掛けるのを見送って部屋に戻ると桜がやけに真剣な顔で待っていた。
普段ならこのあとは日課の見回り、もとい散歩に出かけようとうるさいはずの妹が静かに待っていることが珍しく、どうしたのかと尋ねるとゆっくりと桜は話し始めた。
「今日は夢を見たの、あの人との最後の日の夢。唯一ちゃんと話せたあの夜の夢。
ねえ、幸。明日でこの家に来てから3年だよ、あの時の約束覚えてる?」
もちろん、忘れるわけがない。
今日の朝の懐かしい感覚の夢はきっと桜が見たという夢と同じものだったのだろう。
僕らが産まれた時から覚えている大切な記憶。
「うん、覚えてるよ。あの人と、
もう何年、いや何世紀前の記憶なのだろうか。
はるか昔に共に過ごしていた大切な友人のシキを探して僕らは転生を繰り返している。
記憶を頼りに何度も何度も生まれ変わるたびにシキを探して、見つけることができずに寿命や事故で死に、そしてまた生まれ変わるを繰り返している。
しかし、それももう限界が近づいてきている。
というのも生まれ変わる度に少しずつ記憶が削れ落ちていっているのだ。
最初の頃はシキと暮らしていた何気ない日々も思い出せていたのに今はもう覚えているのはシキが僕らの元から去っていったあの夜のシキの優しい声と後ろ姿だけだ。
おそらく次の転生時にはもうほとんど記憶は残らないだろう。
今度の生が、最後だ。
僕らにはもう時間がない。
「前の街のボス猫に聞いた話ではこの街の山の奥に僕らとシキの最後の記憶の星の降る丘と似たようなところがあるらしい。そこに行ってみよう。」
「うん、シキ、見つかるよね…。
このまま、忘れちゃったりしないよね…。」
俯く桜の顔を覗き込み、にこりと笑って見せる。
「もちろんだ。絶対に見つけるぞ。」
自分にも言い聞かせるつもりでしっかりと言葉にする。
2人で用意をし、玄関の扉を潜って外に出る。
初夏の気候を感じる暑い風を浴びながら山への坂道を登っていく。
僕ら兄弟は体質的に暑さに弱いので適宜日陰で休憩をとりながらなんとか街の奥の山まで辿り着いた。
獣道を歩き続けると不意に目の前が開けた。
そこは記憶にあるあの夜の丘とまったく同じ見た目だった。
多少草が増えているなどの違いはあるが、あの丘の上に生えている白い花の木もまったく同じだ、桜と顔を見合わせて木の方へ走り出す。
木の下にたどり着くとそこには1人の人間がいた。
その人は驚きで固まっている僕ら兄妹に一言、こう言った。
「ユキ、サク…。なんでここに?」
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