第1話
なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。
夢の尻尾を追いかけてみようとしたが寝起きのぼんやりとした思考の中ではもう思い出すことができなかった。
大きなアクビを一つして伸びをすると骨がポキポキと音を鳴らしているのがわかる。
「ん〜〜〜、まだ眠いなぁ…。」
眠気に抗えず、ベットの上で頭だけ起こして横を見るといつもならそこにあるはずの妹の姿がなかった。
どこへ行ったのかと辺りを見回すと廊下から足音が聞こえてきた。
ガチャガチャガチャ!と音を立てて掛け布団に飛び込んできたのは先ほどから姿の見えなかった妹の桜だった。
「幸〜!!おはよう〜!!」
走ってきたのか少し上がった息で挨拶をしてくる妹を押し除けてベットから降りようとすると
「なんで無視するの!!!可愛い妹が朝の挨拶をしているというのに!ひどい!」
キャンキャンと文句を言いながら腹の上に跨ろうとしてくる妹を抑え、ベットの上にようやく起き上がる。
春がもう終わり、そろそろ夏の匂いがしてきたなぁと思いつつまだ足の下でもがいている妹を鼻で笑いつつ挨拶を返す。
「はいはい、おはようかわいい妹の桜。
いつもはまだ寝てるのに今日は元気だね。」
するとさっきまでの癇癪が嘘の様に満足そうに笑って早くご飯食べて外いこ!!とご機嫌な足取りでベットの周りをうろちょろし始めたのでちょろい奴である。
わかったよ、とベットから降りようとすると今度はきちんとガチャリ、扉が開き同居人が顔を出した。
「ユキ、サク。まだここにいたのか。
朝ごはんだぞ〜。はやくおいで〜。」
「ニシキ!だってお兄ちゃんがまだ寝てたんだもん!桜が起こしてあげてたの〜!!」
寝癖で頭の毛がピンピンと跳ねているこの緩そうな男が同居人のニシキである。
うんうん、今日もサクは元気だね〜ご飯食べよ〜とちょっとズレた事を言いながらサクの頭を撫でるニシキに自分の名誉のために弁解をしておく。
「ちなみに桜が来るより前から起きてたし、今までここにいたのも桜が遊んでたからだし…」
「はい、ユキもおはよう〜。
ご飯食べたら外行こうな〜。」
また的外れな事を言いながらこちらの頭を撫でようとしてくるニシキに違うって!と抵抗しながらみんなでリビングへ向かう。
リビングからは話し声が聞こえてくるがまたニシキが映像をつけたままにしているのだろう。
最初の頃は騒音に感じたが、もう慣れたものだ。
リビングに入るともう朝ごはんが用意されていたので桜と一緒に食べ始める。
ニシキはいつも他に何か用意をしてから食べる為食べ終わるのが遅いのだ。
今日も先に食べ終わってしまったので窓から外を見ていると鳥達の会話が聞こえてくる。
「こっちの家の木の実が美味しかったよ!」
「あっちの坂道の電線は止まりやすいよ!」
「そっちの広場は怖い人間がでるよ!」
また中身の無い会話をしてるなあとぼんやり眺めていると鳥に気がついた桜が駆け寄ってきて鳥に向かって大声で話し始めた。
「広場のおじさんはいい人だよ〜!
おやつくれるよ〜!怖くないよ〜!」
「うわ!怖い!!みんな解散!!!」
バサバサと音を立てて鳥達は散り散りの方向に飛んでいってしまった。
急な出来事にポカンとしていると後ろからニシキの笑い声が聞こえてきた。
「サク〜〜、そんなに大きい声出したら鳥達もびっくりするよ〜。」
しっかしすごい逃げられっぷり…と笑いが止まらないニシキに釣られてつい鼻で笑ってしまうと桜はご不満だったようでプリプリと怒り出す。
「なんで笑うのニシキ!ニシキには聞こえなかったと思うけどあの鳥達が広場のおじさんを怖いって言うから良い人だよって教えてあげてたのに!ねえお兄ちゃん!」
「残念だったね、桜」
そう、僕たち兄妹には他の動物達の声が理解できる会話として聞こえるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます