第34話 シロイトだらけのブラック企業

 工場の中はかなり広いが、明かりが無いのでほの暗い。中央にベルトコンベアがあり、作りかけの憲兵が沢山並んでいる。そこに5体ぐらいロボットが居る。さらに、コンベアの脇にも大きな機械が沢山あり、そこにもそれぞれロボットが1体ずついる。どのロボットも、天井から伸びたコードに繋がれていて、動けずそのばでおろおろしている。

「……。」

 私はその光景にぼう然とする。コウメイさんが走っていき、ロボットの背とコードを見た。

「バッテリーを改造されています。工場の電力供給がなくなった今、彼らも電気を得られず停止してしまう。」

「ええ!早く助けなきゃ。」

「待ってタビ!」

 やっとのことで、私は声を出した。「こ、ここにいるロボット、全部ハヲリだ。」

「ええええええ!?」

 シロイトがかなり絡まっている。今までみたハヲリの中でも一番酷い。一体どれほど長い時間ここに拘束されていたんだろう。

「ハヲリという事なら、彼らのバッテリーがゼロになる前にシロイトを解けば助かります。逆に言えば、ロボットとして停止したら、中にいる人間も命を失います。急ぎましょう。」

 コウメイさんが私にカッターを渡す。

「結び目に切れ目を入れてください。そうすれば、後は私達でもシロイトをちぎれます。」

「分かった!」

 私はロボットの結び目を探し、切り込みを入れていく。だが、カッターを持った私を見て、怯えて逃げだそうとするロボットもいた。

「や、めて!やめて!壊さないで!ちゃんと働くから!」

「……。」

 どのロボットも機体が凹んでいたり、傷が沢山ついていたりした。基盤がむき出しになった者もいる。どれほど劣悪だったかは火を見るより明らかだった。

「これで、全部……?」

 一通りシロイトの結び目に傷を付けた。タビとレジスタンスたちがシロイトをほどき、助けた人はモービルに運びこんだ。

「……朝倉希美さん、あと一人います。」

「え!?どこに?」

 コウメイさんが周囲をスキャンして言った。「この先20メートル先、ついて来てください。」

「リーダー!B班から連絡、憲兵たちの追加出兵!第63番区からあと5分でこちらに到達!」

「あと少しです。もう少し持ちこたえてください!」

 私達は工場内を走った。『調整室』と書かれた部屋の前でコウメイさんは足を止めた。

「この中ですね!」

 言うが早いか体当たりでドアを破壊し、中に飛び込む。だだっ広い部屋に、見覚えのある鉄のベッドがあった。

「処刑具ですね。随分と多いです。」

「工場に、なんで……!」

「侵入者発見!排除せよ!」

 大声を出しながらこちらに向かってくるロボットが2体。その奥にはベッドに拘束されているロボットが数体いた。

「ごめんなさい……。上手に描けなくてごめんなさい……。」

 拘束されている1体が消え入りそうな声で繰り返す。シロイトまみれだ。私の背筋に冷たいものが走る。その時、工場全体にヴーン、と低い音が鳴った。

「非常電源が動いた!」

 ロボットの一人が叫んだ。

「憲兵を動かせ!品質テストだ!その間に、そっちは処分しておけ!」

 ベッドのそばにいたロボットが動き出した。ベッド全体が大きな音を立て始める。

「駄目!」

 飛び出そうとした私は、ロボットに取り押さえられる。コウメイさんが蹴り飛ばしたが、もう一体がそこに飛びかかった。さらに、ドアが開いて憲兵が入り込んで来る。

『人間。生体、確認』

 私は両手を掴まれ、乱暴に立たされた。思いきり頭突きをしてみるが、びくともしない。

「この!離しなさい!」

 憲兵と格闘する間に、ベッドに拘束されたハヲリの悲鳴が聞こえた。ベッドが垂直に立ち、横から出た無数のパーツがハヲリの腕、脚、首をそれぞれ別の方向にねじりだした。きしみながら、ロボットの体から火花が出始める。

「止めてッ!ほのか!!」

『目標確認!発射!』

  ヒューン バン!

 耳鳴りかと思うような音がしたと思ったら、急に轟音が鳴り響き、先ほどまであったはずの壁が消えていた。そして、私を拘束していた憲兵が吹っ飛び、私が倒れかけた所で誰かが腕を引っ張った。

「先輩!?」

「間に合った!」

「千草晃平さん、離脱したはずでは?」

 コウメイさんがやってきた。装甲が所々壊れている。

「離脱しましたよ。で、そのあとアレを呼んだんです。」

 先輩が指さした先には、火山で私達を助けてくれた大きな戦艦。

「コテツに頼んで、使用許可もちゃんともらいました。」

「アレを動かすには電力不足です。ついこの間も第一地区に要請して一時町を停電にしてもらってやっと動かせたものなのに。」

 そんなにエネルギーが必要なの!?

「らしいっすね。なのでまた、第一地区の電気全部貰いました。」

「えっ!」 

「カクの人が迷い込んで殺されるかもしれない。そのピンチに立ち向かってるロボットの為に協力してくれってコテツが頼んだら、皆納得してくれて。」

「人が、良すぎるでしょう……。」

 コウメイさんが呆れたように呟いた。

「それで、ほのかは?」

「!そうだ、あっちに」

 私はベッドに駆けよってシロイトの結び目を探す。よりにもよって背中の方だ。コウメイさんが拘束具を銃で破壊し、ハヲリをベッドから下す。結び目を発見した私は、思いきりそれを引きちぎった。ロボットの姿が崩れ、中からほのかが現れた。

「ほのか!」

 先輩が呼びかけるが、ほのかは動かない。やっぱり、ここにいる時間が長すぎたのかもしれない。

「リーダー。全てのハヲリをモービルと戦艦に運び終えました。」

 レジスタンスの一人が走ってきて言った。

「分かりました。すぐにここを離れましょう。」

 コウメイさんが私達を見る。

「竹内ほのかは私が運びます。すぐに戦艦に戻ってください。」

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