第19話 ものを頼むときは対等に

「ダブルさんやコウメイさんの話を聞いていてそう思った。カクの人や紡を拉致するという事は、目的はシロイトかな。」

「肯定します。バリスタさん、あなたはBBと接触が」

「無いさ。一応、探偵を生業にしているからね、推測しただけだ。」

「待ってよバリスタさん!それ、どういう意味?」

「先ほど、拉致されたのはカクの人間と紡だと言っていただろう?カクの人間を拉致して手元に置きたい理由があるとすれば、一番可能性があるのはシロイトだ。」

「……シロイトを沢山手に入れるために、人間を誘拐してるって事?」

 私が言うと、バリスタさんが頷く。

「だからコウメイさんは『人間を連れて来るべきではない』と言ったし、ダブルさんは、このスーツでロボットに我々を擬態させた。違うかな?」

 バリスタさんの問いに、ダブルさんは黙って頷いた。

「その上で尋ねるが……ハチヨンに元々居た人間もまた、シロイトにされたのかね。」

「!バリスタさん、そいつは―」

「肯定します。」

「コウメイ!」

 ダブルさんの言葉を遮るようにコウメイさんが答えた。

「W-74。彼らには知る権利があります。あなたも、ここに連れてくる以上は、BBが何をしたのか伝える義務があったでしょう。」

「けど、あんなのは……聞くに堪えねえだろ……!」

 ダブルさんの声は苦悶に満ち、それ以上言葉が続かなかった。その横で、コウメイさんは私たちの方を見て言った。

「BBが政権を握った頃、ハチヨンでは電力不足が起きました。ちょうど今と同じように、ギョク中でシロイトが不足していたのです。シロイト不足になると、地熱発電が上手く機能しません。BBは自分の町以外への電力供給を9割減らす事で、第84区だけは電力を安定させました。」

 BBの、優れた奴だけが生き残ればいい、っていう考え方がよく表れてる。

「しかし、それでも電気が不足します。パイプでハチヨン中のシロイトを吸い上げても足りません。人間を分解すれば、シロイトは手に入り電気や食料を消費する穀潰しが減りますから、BBには都合が良かったのです。」

「嘘だろ……。何で、そんな考え方が出来るんだよ……。」

 先輩がそう言いながら、吐きそうな顔をしている。

「BBは自分を含む一部の優れたロボットの為に多数が存在すると考えます。人間は、BBが考える最も劣った生き物なのです。」

 コウメイさんが淡々と答える。

「中に居る人間はこうして絶滅しました。そのため、今度は外からシロイトを獲得しようと、BBは拉致を繰り返すようになりました。それでも、区内で必要な量すら確保するのが厳しい状態は続いています。」

 もしかして、第84区がBB以外暗かったのって、節電?だとしたら、全然電力が足りてないじゃん。

「前は、こんな事無かったんだがな。」

 ダブルさんが言った。

「第三地区の地下は元々エネルギーと鉱物の宝庫だった。あらゆる金属が取れる鉱脈に、地熱発電による安定した電力供給。どっちもシロイトさえ絶えなきゃ、どこでも手に入るはずだった。おかしくなったのは、BBがそれを独占したあたりからだ。」

「BBは自身の活動に使う電力が肥大し続けているのでしょう。最近、地上で再びシロイトが減っていると聞きます。BBはさらに手段を選ばなくなるはずです。」

「ほのか……。」

 自分でも声が震えているのが分かる。第三地区の地上にもいない、地下で探索できるエリアにもいない。残っているのは人間をシロワタの材料としか見てないAIが治めるエリア。ここにほのかが居たとしても、もう……!

「おいコウメイ。まだほのかちゃんが捕まったって決まったわけじゃねえだろ。やる前から諦めるなんてお前らしくないな。」

 ダブルさんが言う。

「もしほのかちゃんがハヲリになっていれば、BBであっても人間とは気づけない。そうなりゃ、生きてる可能性だってあるだろ。」

「肯定します。」

 コウメイさんが答えた。

「だったら―」

「しかし、今は移動一つとっても慎重にならざるを得ません。我々もまた、電力を十分に使える身ではありませんから。」

「……火山のクロワタのせいか。」

 ダブルさんの顔が曇った。いまいちピンと来ていない私達を見て、腕のボタンを操作した。空中に地図が現れる。第三地区の地上と地下、そして第二地区だ。

「地上の第三地区と第二地区の間にあるこの山が火山だ。ここの地下に、マグマの熱で熱くなった地熱流体って言う、まあスッゲー熱い液体が溜まってる。ハチヨンの電気は、この液体で地熱発電をすることで賄ってるんだが」

 ダブルさんが唸る。

「どうも、この液体が固まっているらしい。普通じゃあり得ないぜ?ただ、火山の表面が今クロワタまみれなんだ。」

「普段なら、火山は頻繁に噴火し、表面に溜まったクロワタを消しさる自浄作用が働くはずですが。」

「そうだ。でも、なぜか火山は動かない。そこに雨が降り、クロワタをたっぷり含んだ水が地下に染み込み、地熱流動体にどんどん混ざっていく。」

「それで、固まるの?」

「他に考えられないんだよ。俺達も実際に見たわけじゃ無いけどな。クロワタに侵されたものは生物にしろ無生物にしろ、最後は固まって石化して、壊れるからよ。」

 私の疑問に、ダブルさんが頭を掻きながら答えた。

「コウメイさん達は、今発電なしで活動してるの?」

「否定します。発電所のほとんどはBBが押さえていますが、一つだけ、我々が自由に使える発電所があります。BBに見つからないよう隠していますが。」

「だがそれも、火山が動かなきゃ電気は生み出せねえな。」

「肯定します。加えて、その発電所は我々が解放した区の皆が使うものです。我々だけで浪費するわけにはいきません。生命線ですから。」

 やっぱり、発電所一つでは足りないんだ。

「我々はBBを倒さねばなりません。皆にそう約束して、今もぎりぎりまで電力消費を抑えてもらっているのです。これは命がけなのです。申し訳ありませんが、皆さんのオーダーを叶える余裕は、今の我々にはありません。」

 私達の間に、重苦しい空気が流れる。どうすればいいだろう。ほのかは探してもらいたい。でも、住民をないがしろにはしたくない。やっと自由を手にしたんだから。壁の外で処刑されたロボットを思い出し、私は身震いする。同じ目にコウメイさん達を遭わせるわけにはいかない。

「……コウメイさん。私が火山を元に戻せたら、今よりもっと電力を確保出来るよね?」

「えっ希美何言ってるの!?」

 タビだけじゃなく、先輩やバリスタさんも目を丸くしていた。

「朝倉希美さん、詳細な説明を希望します。」

「私は紡だから、シロイトが作れる。第二地区で一回やった時は、大体これくらい出せた。」

 私は自分のひざ下くらいの場所を手で示した。ちょっと盛ってるけど。

「火山に行って、シロイトを作ってクロワタを浄化すれば、火山が元に戻る。そうしたら、発電量は増えるよね。電気が増えたら、コウメイさんも自由に動けるよね。」

「それなら、俺もやるよ。」

 先輩が言った。「二人分なら、それなりの量になるはずだ。」

「もし、それでも足りないなら呼んで。どこにでも行って、いくらでも紡ぐから。」

「否定します。危険すぎます。」

「命がけなのは、コウメイさんだって同じでしょ?ものを頼む以上、私達だけ安全な場所にいるのは違うと思う。大丈夫、これでも一回、怪人と渡り合ったんだから。」

「あれを繰り返して欲しくはないのだが……。」

 バリスタさんがぼそっと言う。

「……どうよ、コウメイ。」

 ダブルさんの問いに、しばらくコウメイさんは黙っていた。が、目が一瞬光った。

「今の私では、直轄エリアの探索は不可能です。」

「コウメイ……。」

「しかし、発電量が確保出来れば、より詳細な探索の出来る機体を動かせます。その為に、火山の浄化をお願いします。」

「!じゃあ、」

「竹内ほのか探索のオーダーを受諾します。千草晃平さん、こちらの絵はしばらくお借りします。」

「ありがとうございます!」

 私達は頭を下げた。

「何か分かりましたらコテツ局長かW-74経由でお伝えします。」

「じゃあ、すぐに火山に案内してください。」

「オーダー受諾を拒否。火山へのルートは、第二地区地上からが最も安全です。」

「オレが案内しよう。登山にいくにはそのスーツじゃ厳しいしな。」

「ではそのようにお願いします。」

「決まりだな!じゃ、そろそろ戻ろう。コテツの旦那が噴火する前にな。」

「うん……。」

 うなだれている先輩。

「しかし、旦那すらコウメイから探索エリアの拡大は引き出せてねえと思う。すげえな、希美ちゃん。ジャスティスだぜ。」

 ダブルさんがサムズアップ。私も顔がほころんだ。空振りで終わる可能性もまだある。それでも、一縷の望みがつながったと思った。

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