第18話 繁栄を支えるもの

「W-74、声量を落とす事を推奨します。毎回言っているのにまだメモリに記憶していないのですか。」

 この子がコウメイ?人間の子供じゃん、と思ったら音声ソフトが読み上げているような声と喋り方だ。やっぱりロボットなんだ、ちょっと毒舌なようだけど。コウメイさんは私達を見ると、再びダブルさんに向きなおった。

「W-74、状況の説明を求めます。どうして地下に紡を連れて来たのですか。今の情勢を理解していないのですか。」

「いいや。分かったうえで連れてきてるぜ。」

「ここは例え紡であったとしても、人間を連れて来るべきではありません。コテツ局長もそう指示していたでしょう。」

「どうしても付いてきて欲しかったのさ。―なあコウメイ。ここで議論してもいいが、アジトに案内してくれよ。バリスタさんがちょいとお疲れ気味でね。」

 えっ、バリスタさん具合悪いの?

「ばれないようにしていたつもりだったのだがね。」

「そのスーツから皆のバイタルはチェックしてたんでな!他の二人も、バリスタさんほどじゃねえが、やっぱ疲れてるみたいだし。」

 うう。申し訳ないけど、事実だ。重いスーツのまま歩いてたから、足が棒みたいになってる。すると、コウメイさんが無表情のままため息をついた。

「……オーダーを受諾しました。では皆さんこちらへどうぞ。アジトへご案内します。」

 コウメイさんのアジトは、下水道をしばらく進み、マンホールから上がった先にあった。三階建ての建物で、中に入るとカウンターがあり、その上にはかすれた文字で「総合受付」と書かれている。コウメイさんはその横にあった階段を上っていく。

「ここ、もしかして病院すか?」

「肯定します。ベッドだけは無駄にありますから、お使いください。」

 コウメイさんに案内されたのは入院用の大部屋。ベッドが六つほど並んでいる。

「もうスーツも脱いで大丈夫だぜ。」

「申し訳ない、お言葉に甘えるよ。」

 バリスタさんはスーツを脱いで横になった。確かに、顔が少し青い。

「ボウズ達も脱ぐといい。トイレ大丈夫か?」

「廊下に出て右手にあります。猫用もそちらです。」

「タビ、行きたい!もう限界!」

 タビがスーツから飛び出して走っていく。私もちょっと口をすすぎに行くことにした。処刑現場の光景を思い出すと、また吐きそうになるから。

「では、まずは自己紹介から始めましょうか。」

 全員が戻ったところで、コウメイさんが口を開いた。

「改めまして、私がコウメイです。初めに申し上げますが、私に出会ったということは内密にお願いします。」

「ダブルさんも言ってたけど、なんで?」とタビ。

「私は表向き、不良品としてBBに破壊されたAIです。もし稼働中と分かればBBの軍隊がこちらに押し寄せます。もし情報が皆さんから漏れたと分かった場合、報復行動に出ますので、よろしく。」

 コウメイさんの眼が笑っていない。タビがガクガクと頷いた。

「ここには私の仲間もいますが、彼らについても他言無用でお願いします。」

「分かりました、約束します。」

 私達が頷いたところで、ダブルさんが口を開く。

「本題だ、コウメイ。用件はずばり迷子探し。」

「オーダー、カクから迷い込んだ人間の捜索。対象の人間についての情報を求めます。」

「ボウズ、説明してやって。」

 先輩はほのかについて説明し、例の破った絵を差し出した。第三地区にいると考えた理由も伝えた。コウメイさんは絵を受け取ると、上から下へゆっくりと見つめる。目が光っているのが見えた。

「……シロイトの構造分析完了。周辺の反応を捜索。」

 あれ、これって観測局と同じ事を一人でやってるって事!?

「そうだ。コウメイは、その辺がジャスティスなんだぜ。精度が観測局と変わらねえって所も大したヤツだ。」

「捜索中断。こちらは既にコテツ局長からの命により、結果が出ています。」

「えっ。コテツ、もう調べてたのか。」

 先輩がちょっと驚いたように言った。調べてなお、ほのかが見つからないって事は

「地下にある84の町のうち45の町に最近このシロイトの持ち主が立ち入った可能性は0.01パーセントです。」

「45?残りの39は?」

 先輩の問いに、ダブルさんが言いづらそうに答える。

「悪いがそこはBBの直轄地で、俺やコウメイは入れない。だから、この場ですぐにスキャンは出来ないんだ。」

「否定します、W-74。直轄地に、人間が生きている可能性はありません。」

「コウメイ、絶対は存在しないぜ。だからこそお前だってレジスタンスをやってるんだろ。頼む、直轄地を調べてくれ。その為に俺はボウズ達を連れてきたんだ。」

「そのオーダーは受諾できません。」

「コウメイ!ここで迷子になるのがどういうことか、お前も知ってるだろ!」

「だからこそ、探索の意味はないのです。」

「お前―」

「すまない、ちょっといいかい?知らない言葉がいくつかあったのでね。」

 ヒートアップしてきた2人の間に、バリスタさんが口を挟んだ。

「まず、レジスタンスというのは?」

「BBを倒そうとしてるロボットの集まりだ。コウメイはそのリーダー。さっきスキャンしたのは、レジスタンスがBBの支配から解放したエリア。この区だってそうだ。」

「W-74、それは最高機密です。私に断りなく話さないで下さい。」

「会ってくれてる時点で、信頼してくれてんだろ?」

 ダブルさんの返しにコウメイさんが舌打ちする。

「地下の迷子探しにレジスタンスの協力は不可欠だ。BBは自分に都合の悪いエリアを見せようとしないからな。」

「でも!観測局には協力しないと駄目って法律で決まってるよ?」

「朝倉タビさん。BBは表向き協力を約束しています。しかし、過去にもカクの人間や紡を拉致し、その事実を隠蔽していた事があります。」

「拉致!?」

 先輩が立ち上がった。「その人、どうなった!?」

「私達が無事に救出しました。しかし、いまだにBBはこの拉致は一部の暴走したロボットの仕業だとし、自身の関与を認めていません。」

 政治のトップが犯罪を指揮しているとしたら、カクからここへ迷い込んだ人は絶対助けられないじゃん!

「もし、ほのかが迷い込んでたら……。」

 先輩が、私が考えたことと全く同じように呟いた。

「コウメイ、無理を承知で頼む。ほのかちゃんを探してくれ。第三地区にいるのは確かだ。地上にいないとなれば、もうここしかねえんだ。」

「お願いします!」

 私達も頭を下げる。が、コウメイさんの返事はそっけないものだった。

「そのオーダーは受諾できません。」

「どうしてすか!BBに拉致されちゃったら、隠されて二度と見つかんないかもしれないんでしょ!?」

 とうとう千草先輩が声を荒げてコウメイに掴みかかろうとした。ダブルさんがさっと先輩を制する。

「ボウズ。ままならないからって暴力はノーだ。」

「……。」

「じ、じゃあ、タビたちで頼みに行こうよ!観測局にはどの地区も協力が義務付けられているからね!」

「朝倉タビさん、その方法は推奨しません。行ったところで竹内ほのかが見つかる可能性はゼロだからです。」

 コウメイさん、さっきから凄く非協力的だ。調べてないエリアの事をどうして言い切るの?私達は可能性のある所は少しでも調べたいのに。やる気ないの?

「……直轄地に入った人間は全て死ぬからかい?」

 耳に入った言葉を、私はしばらく理解出来なかった。声の主は、まだ青い顔をしたバリスタさんだった。

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