第16話 会いに行けない系聡明

「オレだ、ダブルだ。入って良いかい?」

 返事をすると、ダブルさんが入ってきた。私を見ると、手を振ってくれた。

「お!目を覚ましたか。良かった。」

「すみません。ご迷惑をおかけしました。」

「いやいや。むしろ悪いな。俺達じゃベッド貸すくらいしか出来なくてよ。もう歩けるかい?」

「はい。」

「うっし。じゃあ皆ついて来てくれ。話したい事があるんでな。」

 ダブルさんは私達を上の階にある作戦室に案内してくれた。沢山のボタンが付いた操作盤。その上には町の様子が映った沢山の画面。中央にはホログラムで出来た地図。おお、怪獣映画に出て来る作戦室みたい。

「あれー、クナちゃん達は?」

「ああ、先に防衛任務に―ってクナも出てったのかよ。」

 ダブルさんはタビに指摘されて初めてクナさんが居ない事に気付いたらしい。

「全く。修理を先にしろっつったのに。バリスタさん、あの義手は設計図通りだったよな。」

「完璧にコピーしたと自負している。しかし、私の魔術自体が持って三日だから、早めに修理してくれたまえ。」

「オッケイ。伝えとくぜ。」

 ダブルさんが指で丸を作った。

「さて、俺が君達を呼んだのはさっきボウズが言った迷子の事だ。」

「ほのかの事っすか!?」

 千草先輩が食い気味に尋ねる。

「おう。コテツの旦那とあの後話してたんだが、ここはひとつ知り合いの力を借りようと思う。普段は俺と別行動なんだが、分析や作戦立案はあいつの方が得意なんだ。」

 へー。ダブルさんはいかにも戦闘型って感じだけど、知り合いさんは頭脳型なのかな。

「で、ボウズと希美ちゃんに、探してる子について詳しく教えてほしんだ。あとその絵、貸してくれるか。探索の手掛かりになる。」

「それなら、俺もついて行くっすよ。直接頼むのが礼儀だと思うんで。」

「あー……。でも、希美ちゃん疲れてるだろうし、ボウズだって旦那のとこ帰らないと大目玉だろ?」

「どうせいつ帰ったって殴られますよ。それに、迷子探しには対象者を知るのが肝心ってダブルさん言ってたじゃないすか。俺、アイツの事なら何でも分かるんで!」

「わ、私も。体調ならもう平気だし。」

「いや、無理はしなくても……。頼むのはオレ一人でいいし。」

「でも、直接話した方がよく分かるじゃないすか。」

 先輩が言うと、ダブルさんはうーんとうなる。気のせいかな、ダブルさんの言葉のキレが悪いような。私達を連れて行きたくないのかな。

「正直、ボウズ達にはここに居て欲しいんだ。連れてくのは、気が引ける。」

「私達、邪魔になる、ってことですか?」

「いや、その……。」

「確かに、怪獣に太刀打ちは出来ないっす。ただの人間だし、何ならハヲリになりかけてるし。」

 先輩がうなだれる。

「でも……やっぱり何もしないのは、俺自身が許せないんです。責任を取りたいんすよ。もしほのかが戻らなかったら、俺は……人殺しになる。」

「ぼ、ボウズ!それは言い過ぎってもんだろ。」

「そんな事ないすよ。ハヲリって、ようは別人になるってことっしょ。ハヲリになって、戻らなくなったら、竹内ほのかって人間が消滅することになる。それって、死ぬのと一緒じゃないすか。」

 震えながら話していた先輩は、突然ダブルさんに向かって土下座した。

「お願いします!足でまといにはならないすから!シロイトだっていくらでも作る!ほのかが助かるなら命なんて別に惜しくない!だから」

「わ、私からもお願いします!」

「希美!?」

 タビが驚く横で、私も土下座する。

「ほのかを追い詰めたのは、私のせいでもあるんです!友達を失いたくないんです、お願いします!」

「わ、分かった分かった!顔を上げてくれ!」

 ダブルさんがとうとう観念した様な声で言い、ため息をついた。

「……別にボウズ達が邪魔だとか、そういう理由じゃないんだ。ただ、知り合い、コウメイって言うんだが、そいつの居場所はあまりに危険すぎる。」

「怪獣がよく出現するとかー?もうタビたち遭ったよ。」

 タビの問いに、ダブルさんは首を横に振った。

「怪獣は出ない。だがもっと危険で、狡猾な存在がいるのさ。俺だって、一歩間違えば命取りになる。」

「ダブルさんが、かい?防衛軍でも手強いのか。」

 バリスタさんが険しい顔になる。

「だが―うん。二人のジャスティスを見せられちゃ、俺も動かないわけにはいかないな。それに、ほのかちゃんは助けを待ってる。早く行かないとな。」

 ダブルさんが私達の肩に手を置いた。

「ついて来てくれ、案内するから。」

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