部長の誤算
「やあ、棗君」
「どうも」
なんだか妙に緊張する。今告白されたら吊り橋効果で簡単に落ちてしまいそう。
首吊り、溺死、飛び降り、圧死、焼身、凍死ときて最後は刺殺か……できれば安楽死がよかった。
「七不思議のうち六つまでは完了したわけだが……重大なことに気付いてしまった」
「なんですか?」
「幽霊が出てこない!」
「…………はい?」
「七不思議は事件+霊的な要素で成り立っている。例えば自殺した生徒のすすり泣く声が聞こえてくる──焼身自殺した生徒の霊が助けを求めてさまよっている。これで初めて七不思議と呼べる」
この人は一体何を言っているんだろう。
「チカ君はどうだ!? 死んでいったミス研の部員たちは!? 誰一人として霊となって出てきていないじゃないか!」
「いや、まぁ……そうですね」
「棗君ならこの一連の出来事を10年後にどう振り返る?」
「うーん、連続不審死」
「そう! 七不思議というオレのメッセージに辿り着ける者は皆無だろう」
心底悔しそうに唇を噛むことか? 甘美な死を届けてくれると思っていたのに肩透かしをくらった気分だ。
「ということで棗君には幽霊となって生徒たちに恐怖を植え付けることを約束してほしい」
部長は握手を求めてくるが、私の右手は鉛のように重くなって上がらない。
「死後の世界とか信じてないので無理です」
部長はガックリと項垂れる。
傍から見れば告白失敗にしか見えない……いや、手に包丁を握ってるからそれも違うか。
「眼球と心臓をくり貫いて最後の七不思議になってもらうつもりだったが計画は変更だ」
というか私、そんな残酷な死に方をする予定だったのか。
「チカ君や他の部員には失望した。かくなる上はオレが自ら七不思議となるしかない」
先輩は躊躇なく包丁を腹に突き立てた。
そして切腹よろしく、歯を食いしばって腹を裂く。
突然の出来事に私は動けなかった。悲鳴を上げるでもなくただ内臓が破壊されるのを眺めている。
「な、棗君……は、七不思議を……語り継いで、く……れ……!」
なぜそこまで七不思議に拘るのか、最後の最後まで分からなかった。聞いておけばよかったと後悔するも死人に口なし。
名誉の死を遂げたように血溜まりに沈む部長。
でも私には滑稽にしか見えない。
脳が部長の死を認識すると金縛りが解けたようにフッと体が軽くなる。
「あー……どうしよ」
脈を確認しなくても死んでる。この場から逃げてもよかったけど疑われるのは目に見えてるので、素直に先生に報告することにした。
顧問の先生は何も言っていないのに苦虫を噛み潰したような顔で私を見る。
そして部長の死を告げると顔が皺だらけになり一気に老けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます