六不思議
「考えられるのは後追い自殺……彼は秘かにチカ君に恋心を抱いていて、それが今回の事故に繋がった」
部長がもっともらしい推理を披露している。自分で殺しておいていけしゃあしゃあとしているのも凄いし、誰からも疑われていないのも凄い。
警察からの事情聴取の後、先生からミス研の休部を言い渡された。
放課後の時間の潰し方を考えていると、荷物を整理したいから手伝ってくれと部長に呼ばれた。
部長と並んで歩いているだけで訝しむ視線を四方八方から感じる。
「凄いな、オレたちはすっかり時の人だ」
「迷惑極まりないんですけど」
頭のネジが外れている部長は手を振って応えるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、そこまで馬鹿じゃなかった。
何食わぬ顔で荷物整理を始めた部長に気になっていた疑問をぶつけてみる。
「私は何番目ですか」
「何番目とは?」
「とぼけないでください。七不思議に必要な死体は後五つ。先輩4人と私が犠牲者で部長だけが生き残る算段ですよね」
「逆に問おう。何番目がお望みだ?」
「特に希望は──というか否定しないんですね」
「嘘ウソ。オレは棗君を殺すつもりはない」
「もう遅いです」
アル中の父に殺されるくらいなら部長の遊びに付き合って上げたほうが……なんて考えている自分がいるのも確か。
その日から休部になり、部長と顔を合わせることはなくなった。
久しぶりの再開は一週間後、またまた職員室。
「屋上から飛び降り自殺……彼女は成績が伸びずに悩んでいたので、もしかしたらそれが関係しているのかもしれません」
「棗君はどうだ?」
「知りません」
さらに五日後。
「体育館の照明が落下して圧死……これは老朽化が原因でしょうね」
「な、棗君」
「知りません」
次は三日後。
「職員室に謎のモチーフを描いて焼身自殺……何か学校に不満があったと推測します」
「棗君、被害者は全てミス研の生徒というのは……」
「知りません」
忘れたころの三週間後。
「家庭科室に凍った死体……これはシンプルに殺人ですね」
「棗えぇぇぇっっっ!!!!!」
「知りません」
大胆かつ狡猾にミス研の部員を消していく部長。完全にマークされながらも証拠だけは残さないプロの手口で、平然と学校に通い続けている。
私の周りから人はいなくなった。
当然と言えば当然で、その点については煩わしさがなくなったからいい。
一つ厄介なのが父の暴力。最近はタガが外れていて、顔だろうと関係なく殴られるようになった。
同じ部活の生徒が死にまくってるアザだらけの女。そりゃ距離を取られるのも納得か。
『明日の放課後、体育館裏で待ってる』
部長からメッセージが届いたのは昨日の夜のこと。
もちろんこれは愛の告白じゃなくて、私を殺す準備が整ったとしか考えられない。
ついに来たかと覚悟する半面、どんな方法で殺されるのか、死ぬ前に部長がどんなことを話すのかも気になる。
だから今日の私は朝から上の空。授業だって全く身に入らないけど死後の世界で英語は役に立たないから問題ない。
太陽が上昇するにつれて鼓動が高鳴っていく。
昼食はミニハンバーグを一口だけ食べた。殴られたせいで口の中がズタボロで味を楽しんでいる余裕なんてなかったから。
こうなる前にもっと美味しい物を食べればよかった。最後の晩餐が血の味ってのはさすがに悲惨すぎる。
いざ死が迫ってくるとあれこれと欲望が出てきた。やるべき事は終わらせたはずなのにここに来て自分の新たな一面を知れた。
ホームルームが終わると同時に席を立つ。昇降口には向かわず上履きのまま体育館裏に直行した。
部長は鈍い光を放つ包丁を手に私のことを待っていた。
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