チカちゃん
翌朝、登校するとチカちゃんが桜の木で首を吊っていた。
眠るように安らかな顔で死んでいたので、生徒たちもそれほど驚いていない。
それどころか悲しい現代人の性か、スマホを向けて写真やムービーの撮影に忙しいようだ。
騒ぎを聞き付けた複数の教師がブルーシートで現場の周りを覆う。チカちゃんの遺体は完全に隠れてロープだけがゆらゆらと揺れていた。
人は減るどころかどんどん増えていく。生前のチカちゃんは注目が集まることを極端に嫌っていたので、私は離れることにした。
教室ではなく実習棟三階の部室に向かう。
建付けの悪い扉を開くと部長が窓から桜の木を眺めていた。
「見たまえ、棗君。ちょうどチカ君の遺体が木から外されるところだ」
隣に立つと説明されていた場面が視界に入った。
「角度は問題ないが遠くてよく見えないな」
部長がスマホを目一杯ズームしている間に、チカちゃんの遺体はブルーシートでくるまれた。
「残念だ」
この残念はチカちゃんが亡くなったことではなく、見逃したことに対しての発言だ。
「部長が殺したんですか?」
単刀直入に問うと、
「チカ君は自分で首を吊った」
部長は他人事のように答えた。
「そうですか」
私は驚くほど冷静だった。部長の為なら死ねる──チカちゃんの愛はそれほど深く歪だと認識していた通りの結果になったから。
「七不思議で重要な要素は死って言いましたよね」
「ああ」
「後6人殺すつもりですか?」
「殺すかどうかはさておいて、七不思議の数だけ犠牲者は生まれるだろうね」
『呼び出しをします。ミステリー研究会の生徒は至急職員室まで来てください』
「どうやら事情聴取が始まるようだ。行こうか」
「はい」
口止めを迫るようなことはしてこなかった。きっと私がチカちゃんの意思を尊重すると踏んでいるからだろう。
もちろんこのことを喋るつもりはない。
チカちゃんの為……というのもあるけど、七不思議を作りたくて殺したなんてしょうもない理由を口にしたくないから。
年に一度しか顔を出さない顧問の先生は、まるでチカちゃんを近くでずっと見てきたかのような沈痛な面持ちを浮かべていた。
薄っすらと目に涙を滲ませる姿に、この先生は劇場型なんだと察する。
「ここ最近何か変わった様子はなかったか?」
幽霊部員だった先輩たちはゲームのNPCのように「分かりません」と口を揃える。
「チカ君は……何かに悩んでいるようでした。それが家庭の悩みか交友関係かは定かではありません」
探偵気取りの部長はいつもの調子だ。まさか先生も目の前に犯人がいるとは微塵も考えていないだろう。
私も当たり障りのない返事でその場をやり過ごすと、チカちゃんのことについては箝口令が敷かれた。
その場はお開きになったが、私たちは翌日もまた職員室に集められた。
ミス研の先輩がプールで溺死しているのが発見された。
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