第47話 血を吸う者との戦い

「アイスソード!」


吸血鬼のかぎ爪とリーゼロッテのレイピアが激突する。


アイスソードの効果によって吸血鬼の右腕は氷ついているものの、膂力りょりょくは吸血鬼の方が上なため、徐々にリーゼロッテが押されていく。


そこで俺がショートソードで吸血鬼を後ろから斬りつける。


分が悪いと悟ったのか、吸血鬼はつば迫り合いをやめるためかぎ爪に力を入れてリーゼロッテを吹き飛ばす。


そして今度は背中を斬りつけている俺に向けてかぎ爪を振るい、俺のショートソードを受け止めた。俺は吸血鬼を右足で思いっきり蹴飛ばす。


吸血鬼は吹き飛ぶが、すぐさま体勢を立て直した。


「アイス・バレット!」


同じく体勢を立て直していたリーゼロッテが魔法を飛ばす。吸血鬼は身体を逸らしたものの、アイス・バレットは彼の腹部を貫いた。


「こんなものをいくら飛ばしたところで私には効きませんよ」


吸血鬼の腹部に作られた傷はすぐに修復されていく。吸血鬼は回復能力が高い。だからこそ厄介な相手だと言える。


通常、吸血鬼は聖属性魔法に弱いため聖属性の魔法を叩き込めば倒せることが多い。


しかし、今戦っている吸血鬼は神父に憑依しているせいで聖属性魔法に対する耐性がある。だからかなりの難敵であるといえるだろう。


まぁ、吸血鬼の回復能力が高いといっても回復には魔力が必要だ。


戦っていくことで地道に奴の魔力を減らしていくしかないな。




◆◆◆◆◆◆



「ファイアーボム!」


爆炎が吸血鬼を黒焦げにしていく。


「グゥッッッ!!! ブラッド・ヒール!」


吸血鬼の全身を深紅の血液が包んでいき、彼の身体を回復させていく。


執拗な攻撃を続けた結果、吸血鬼の回復能力はかなり遅くなってきている。体内の魔力濃度が薄くなってきているためだろう。これはチャンスだな。


「リゼ、ここで一気に畳み掛けるぞ!」


「了解しましたわ! ウォーターカノン!」


「弱りましたね。もう魔力が残り少ないのですが。ブラッド・カノン!」


水の濁流と血の濁流が激しくぶつかりあう。吸血鬼はウォーターカノンを押さえつけるのに手一杯な様子だ。


「死滅の業火!」


静脈血のようにどす黒い炎が吸血鬼を包んでいき、焼き焦がす。


「ぬわああああああああ!!!! ぐはっああぁぁぁ!!!」


吸血鬼は断末魔をあげながら塵になっていった。


「お、終わりましたの?」


「ああ。無事討伐完了……」


「ダークバインド」


黒い触手が俺とリーゼロッテの四肢を拘束する。


「きゃあっ!」


「くそっ。身動きが取れない」


「はははは。上手くいったようですね」


祭壇に飾られていた聖人の像が笑い声をあげる。像の目から真紅の血液が流れ出していき、それが地面に到達していくと、血液がうごめきだす。


血液は人の形になっていき、最終的に吸血鬼の姿へと変化した。


「眷属たちがニンニクによって行動不能になる中、私がなにもせずに待っていたと思っていたのですか? 甘いですね、私は聖像の中に自分の血液を溜め込んでいたのですよ。だから生き返る事ができたのです」


くそっ。迂闊だった。吸血鬼という奴は厄介で滅ぼしたとしても身体の一部が残っているとそこから復活してしまう事がある。


吸血鬼の全身をしっかりと焼き尽くせば問題ないと思っていたが、まさか聖像の中に血液を隠しているとは思わなかった。


俺は黒い触手を力づくで引きちぎろうとするも中々上手くいかない。触手がしなやかなせいで変に力を入れてもちぎることが難しい。


「あなたは大人しく俺たちに討伐されろと言っていましたね。その言葉、そっくりそのままお返し致します。ブラッド・ボール」


吸血鬼の近くに2つの赤い水球が現れる。


「どれほど強い者であろうと、人間である以上は呼吸をしなければ生きていけません。私の血液が含まれた水球の中で溺れ死ぬ権利をあげましょう。安心してください。溺れ死ぬ中で私の血を飲めば私の眷属になれます。ちょうど強い眷属が欲しいと思っていたところなのですよ。オリハルコン級への昇格試験を受けられるような強力な冒険者の身体を素材にした眷属が手に入ればより多くの人間を支配することができるようになります。楽しみですね」


赤い2つの水球が俺とリーゼロッテに迫っていく。ここは少し本気を出さないとまずいな。


水球が近づいてくる速度が速いため、普通の魔法で触手を千切ろうとしていたら水球の餌食になってしまう。


俺は特殊な魔法を唱えるために口を動かそうとする。その刹那、赤い水球は空中で大きく揺れうごきだした。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


吸血鬼は両手で頭を激しく押さえだす。彼の両目からは血液が涙のように滲み出ている。


今の吸血鬼に魔法を維持する余力は残っていなかったのか揺れ動いていた赤い水球は消えてなくなった。


「一体何が起きてるんだ?」


「リオンさんでも分かりませんの?」


「ああ。想像がつかない。とりあえず、今のうちに触手から抜け出すぞ。聖なる炎の守り手セイント・ファイアー・プロテクション


聖属性を帯びた炎魔法によって俺とリーゼロッテを拘束する触手を燃やしていく。


この魔法は拘束された際に拘束具だけを燃やすことのできる便利な魔法だ。まぁ、その分消費魔力は大きいが。


拘束を解いた後も吸血鬼はもがき苦しんでいた。近づいていくと、俺の方を向いた。


「リオン様。もう長くはありません。今のうちに私を滅ぼしてください」


「あなたは人間のロヴィーノ神父か。吸血鬼に身体を乗っ取られたのにまだ意識が残っていたとは」


「貴様ああああああ!!!! せっかく祓魔師を殺せるチャンスだというのに!! 邪魔をするなぁ!!!!」


同じ人物が矛盾した発言をしている光景は少しシュールだな。とりあえず、ロヴィーノ神父が吸血鬼の動きを抑えてる間に討伐してしまうとしよう。


「死滅の業火!」


再びどす黒い炎が吸血鬼の身を焦がしていく。


「貴様ああああああああああ!!!!!!」


ロヴィーノ神父の干渉も虚しく、身体の自由を取り戻した吸血鬼は炎に身を包まれながらも俺へと手を伸ばしてくる。


「させませんわ。ウォーターカノン!」


激しい水流によって吸血鬼は吹き飛ばされ、石製の壁を突き破って教会の外へと転がっていく。


追いかけると、教会と屋敷の間にある庭の中に吸血鬼が横たわっていた。


吸血鬼は血走った目で俺を見つめる。


「せめて貴様らだけでも殺してやる。『魔力暴発』」


吸血鬼の身体が大きく膨らんでいく。なるほど、体内の魔力を暴発させる衝撃によって俺たちを爆殺するつもりなのか。


「キュイ!」


空から鳴き声がしたと思うと、俺とリーゼロッテを包み込むようにして炎の膜のようなものが誕生する。


吸血鬼は大きく爆発し、教会を破壊するも、炎の膜によって俺たちは傷ひとつつかずに済んだ。


吸血鬼の自爆が終わった後になり、ソラスがリーゼロッテの肩に止まる。


「やはりソラスのおかげでしたのね」


ソラスには俺たちが吸血鬼と戦っている最中に村人が近づいてこないように見張らせていたんだが、俺たちが教会の外で自爆攻撃を受けそうになっていたために加勢してくれたようだ。

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