第43話 エルプティオ村の鍛治屋
俺は鉄製の頑丈そうな扉を開く。石造りの建物の中はがらんとしており、人気はない。代わりにショーケースや壁に多くの武器や防具が飾られている。
ソラスを窓から放った後、俺たちは村を探索してみることにした。今いる場所は村にある鍛治屋だ。
「わぁ、さすが火山地帯にある村ですわね。希少度の高い金属で作られた武器ばかりです」
リーゼロッテがショーケースを眺めながら感嘆する。今の彼女は紫のバトルドレスの上に青いローブを羽織っている。
ただのローブではなく、俺が羽織っているものと同じで瘴気を無効化できる装備だ。それ以外にも、彼女には浄化の指輪や分離の首輪を身につけてもらっている。
今回はいつ悪魔と戦うことになるのか分からないからな。
俺もリーゼロッテが見ているショーケースに飾られた武器を見る。そこにはオリハルコンやアダマンタイト製のロングソードが陳列されていた。
「素材も良いが、鋳造のレベルも高いな。きっと、ここの店主はかなり腕のたつ鍛冶師なんだろう」
「そうですわね。おまけに、帝都で買うよりも値段が安い気がしますわ」
俺は武器の値段を見る。どれも金貨7~8枚程度の価格だ。確かに、帝都で同じような武器を買うなら最低でも金貨10枚はするはず。
そう考えたら破格の安さだ。
「店員がいないにも関わらず、こんな質の高い武器を飾ったままにしてあるのは不用心な気がしますわね。一応、勝手に持ち出そうとすると魔術が発動するようにはなっているようですけど」
リーゼロッテの言う通り、武器の飾られている壁やショーケースには何らかの魔術的な仕掛けが施されているようだな。
「心配いらんよ。お嬢さんのような部外者なんてこの村には滅多に来ない。ここは灼熱の地獄にある辺境の村だからな。仮に村の誰かが盗みを働いても、人口が少ないからすぐに誰がやったか分かるのさ」
店の奥から声が聞こえてくる。見るとそこには背の低い老人が大きなハンマーを持って仁王立ちしていた。おそらく、種族はドワーフだ。
「あんたはここの店主か?」
「いかにも」
「では、ここに飾られている素晴らしい武器たちもあなたが作りましたの?」
「全部ではないな。だが、3割くらいは儂が作ったものになる。残りは部下や弟子が作ったものだが、どれも品質が高いぞ。できの悪いものは全て処分し、もう一度鉄塊に戻してしまうからな」
基準よりも質の低いものは処分だなんて思い切った事をするものだな。不良品を安く売る方が手間が省けるだろうに。
まあ、何度も作り直す事で技術力があがるのかもしれないが。
「このお店にはレイピアは売られていますの? あるのなら見てみたいですわ」
「勿論売られているさ。こっちに来い」
店主はハンマーを手に持っていたハンマーを床に置くと、ついてこいと合図をしてくる。俺たちは彼の後をついていく。
レイピアは店のかなり隅の方に陳列されていた。
「ずいぶん人目につかないところにありますのね」
「この村は基本的に鉱石の採掘が主要な産業だからな。そのおかげで屈強な男が多い。だからレイピアは滅多に売れないんだ。ただ、あんたのような村の外から来た人間が稀に買ったりもするし、技術力を維持するために一応作ってはいる」
「なるほど。私のような人間には需要があるだけに少し残念な話ですわね。村の外に売ったりはしませんの?」
「閉鎖的な村とはいえ、定期的に行商人が来る。奴らにはそれなりの数を売っているよ」
「なら、帝都でもこの村で作られた武器が売られているのかもしれないですわね。まあ、この村で買うよりも高くなるでしょうけれど」
「そうだな。せっかくだし、ここでリゼ用のレイピアを買っていくか。神父からも村に金を落とせと言われているしな」
「良いですわね。万が一に備えて、予備の武器を買っておきたいですわ」
「いや、今持っているレイピアを予備に回して、これから購入するレイピアを普段使いにしよう」
「なぜですの? 私の今使っているレイピアもオリハルコン製なので、切れ味は良いと思うのですけれど」
「そんな柄の部分が金で薄くコーティングされていて、尚且つオパールの宝石で装飾されているようなレイピアを万が一戦闘中に紛失したらショックが大きいだろ?」
「確かにそうですね。分かりましたわ。これから買うものを普段使いに致します」
「そうかい。ここに置いてあるものは質の高いものばかりだ。自分の体格や戦闘スタイルにあうものを選ぶと良い」
「ええ。試しに手で持ってみても?」
「もちろんだとも。気になるものがあったら試し斬りをしてみると良い。店の外に丸太があるから使って良いぞ。お金は取るがね。丸太一本で銀貨3枚だ」
「分かりましたわ」
帝都の鍛治屋であれば無料で試し斬りをさせてくれるのに、この店では金を取るのか。まぁ、土地柄のせいで木材は貴重だろうから仕方がないな。鍛治をするのにも燃料が必要になってくるだろうし。
リーゼロッテはショーケースに施されている防犯魔法を解除してもらいつつ、陳列されているレイピアを手で持ったり、軽く振りかぶる。レイピアは細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣だ。
しかし、レイピアと一言で言っても形状や刃の長さ、重量などは様々なものがある。そのため、実際に扱うことで使い心地を確かめることが大事になってくる。
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