第42話 拠点での密談
「あ、悪ぶフッ!?」
リーゼロッテが大きめの声をあげてしまいそうだったため、俺は慌てて彼女の口を手で塞ぐ。
「どうかしたか?」
前を歩いていたヴァルガスに声をかけられる。
「いや、何でもない。彼女が急に下品な事を口にしそうだったから止めただけだ」
「何を言おうとしたのか分からないが、まあ良いだろう。そんな事より、宿についたぞ」
ヴァルガスの前には白い石造りの建物がそびえ立っていた。屋根の上には大きめの十字架が金色に光輝いている。
「宿? ここは教会では?」
リーゼロッテが首を傾げる。
「まだ言ってなかったな。この村には一般的な宿は存在しない。だから村の外から来た人には神父様の住んでいる屋敷に泊まってもらうようにしている」
「なるほど……」
俺達が教会の中へと入ると、そこには既に神父の姿があった。彼は白髪混じりの髪を後ろに撫で付けており、顎髭もしっかりと整えられている。
背筋もピンと伸びていて、まるで生真面目な性格をそのまま体現したような人物だ。
「私はこの教会で司祭をしておりますロヴィーノ・ベネシュと言います」
「俺はリオン・ダーンズだ。そしてこちらが……」
「リーゼロッテですわ」
「ロヴィーノさん、あとはよろしくお願いします」
「分かりました」
ヴァルガスは教会を後にした。
「さて、それじゃあ早速案内するとしましょうか。どうぞついて来てください」
「ロヴィーノさん」
俺は神父に声をかける。
「どうかされましたか?」
「俺は以前、あんたに会ったことがあるような気がする。覚えてないか?」
「どうでしょう。冒険者の方とお会いした事は何度かありますが……。申し訳ありません。私は記憶力が弱くて」
「そうか。なら、俺の勘違いだろう。今の事は気にしないでくれ」
「ええ。分かりました。では、お2人が泊まる部屋をご案内します」
俺達は彼の後に続いて廊下を歩き始めた。教会の裏口を通ると、すぐそこには神父の屋敷があった。
屋敷といっても、貴族のものほど豪勢な造りにはなっていない。2階立てな上に部屋数も多いが、あまり装飾などはされておらず、質素な雰囲気になっている。
「ここがお2人の部屋になります。自由に使ってもらって構いませんよ」
案内された部屋は二階にある角部屋だった。室内にはシングルベッド二つにクローゼット、木製のテーブルなどが備え付けられている。
窓の外を見ると先ほどの教会が見えた。
「食事についてですが、私のような聖職者の食べるものを冒険者の方が食べるのはお辛いでしょう。近くに村の酒場がありますので、そこを利用してください。あ、村にはもちろん、鍛冶屋や雑貨屋などもありますよ。ラグナロクドラゴン討伐に役立つものも売ってるはずです。なにか聞きたいことはありますか?」
「宿代はいくらだ?」
「旅人の方からお金は頂きませんよ。私は神にお仕えする身ですから」
「だが、ただで泊まってしまうのも意心地が悪いな。俺は別に金には困っていないから」
「では、村のお店や酒場でお金を使ってください。きっと喜んでくれると思いますので。私は買い出しに行ってきます。それでは」
そう言うと、ロヴィーノ神父は部屋を去っていった。
ガタンという音を立てながら扉が閉まっていく。
「良い人そうでしたね」
「表面上はな。ただ、彼は少し不気味でもある」
「確かに、表情が全く変わらないのでその辺が不気味でしたわ」
「それもそうだが、教会関係者だというのに彼は……。いや、この話をするのはやめておこう。俺の思い違いかもしれないからな。それに、リゼに先入観を与えたくはない。俺とは違う視点でこの村を見ていて欲しいからな」
「分かりましたわ。それで、先ほど言っていた話の続きなのですけれど」
「ちょっと待て。『サイレンス・シールド』」
俺は風魔法によって部屋の外に音が漏れないよう、結界を作る。
「これでどんな会話をしても大丈夫だ」
「では、改めて聞きますわ。リオンさんはなぜこの村が悪魔絡みの厄介ごとに巻き込まれていると思いましたの?」
「うっすらとだが、建物の暗がりの中に瘴気が漂っているのが見えたんだ」
「人々を病気にしたり、濃度が高い場合にはアンデッドに変えてしまう事もある恐ろしい気体ですわね」
「そうだ。瘴気は様々な理由で発生するが、悪魔の住み着いた土地にも瘴気は発生する。それに、先ほど村の色々な場所から視線を感じたが、明らかに人の入り込めなさそうな場所からも視線を感じた。リゼもそうだろ?」
「ええ。言われてみれば、天井裏やネズミしか入れなさそうな建物の隙間、木箱にあけられた穴などからも視線を感じましたわ。あんな場所に普通の人がいるとは思えないので、怖いですわね」
「まだ確証はないが、おそらくあの視線は悪魔たちのものだと思うんだよな」
「これからどういたします?」
「ラグナロクドラゴンの討伐は後回しにしよう。まずはこの村に巣食っている連中に対処したい」
「意外です。リオンさんがなんのメリットもないのにこの村を助けるなんて」
「俺は元祓魔師だぞ? これまでの人生で多くの悪魔と対峙し、多くの仲間を失った。だから俺はメリットがなかったとしても、目の前に悪魔がいるのなら討伐する」
「そういう事でしたのね。意外だなんて言ってごめんなさい」
「気にしなくて良い。俺が薄情な人間だっていうのは事実だしな。とりあえず、まずは情報収集をしよう。村人たちからさりげなく村でなにが起きているのかを聞きだすんだ」
「キュィッ! キュイイー!」
これまで大人しかったソラスが鳴き声をあげる。
「いったいどうしたのでしょう。お腹が空いているとか?」
リーゼロッテが干し肉を取りだしてソラスに与えようとする。
「キュウッ! キュウッ!」
しかし、ソラスは首を横に振る。
「お腹が空いてるわけではないようですわね」
「そう言えば、ギルド長のアルバがソラスは人の言葉を理解できると言っていたな……。そうか!」
「なにか分かりましたの?」
「ほら、アルバはソラスの記憶を見れば俺たちが昇格試験で不正をしていたとしても分かってしまうとも言っていただろ? つまり、ソラスには自分の記憶を他人に見せる魔法が使えるんじゃないか?」
「キュイーッ! キュイイ!」
今度はソラスが首を縦に振る。どうやら正解だったようだ。
「なら、ソラスに村の中を飛び回って貰えば効率良く情報を集める事ができますわね。ただ、彼女は赤い羽根をしているから目立ちそうです」
「魔法をかければ問題ないさ。『変色』」
幻術魔法の効果により、赤い羽根は茶色く変色し、青い目は黒く染る。これだけ地味な配色にすれば、エルプティオ村の住民たちもソラスのことを怪しまないだろう。
「そういう事だ。じゃあソラス、頼んだぞ」
俺は部屋の窓を開ける。
「キュイ!」
ソラスは外へと飛び出していった。
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