第41話 火山の麓にある過酷な村
俺とリーゼロッテはまばらに植物の生えている硬い地面の上を歩く。リーゼロッテの肩には不死鳥であるソラスが乗っている。
周囲には大きな岩が転がっており、場所によっては溶岩の流れた後がくっきりと残っていた。
遠くには真っ赤なマグマが川を作っているのが見える。ヴェスブラウ火山から吹いてくる風は生暖かい。もう少し歩けばエルプティオ村に到着するはずだ。
「こんな過酷な環境の場所に村があるなんて、にわかには信じがたいですわね。火山が活発化すればとても危険でしょうに」
「火山周辺では鉱石を発掘できるし、希少度の高い魔物の素材も手に入るからな。多少は危険な土地でも、金を稼ぐためにここで生活をしているんだと思うぞ」
「鉱石や希少度の高い魔物……。そう言えばテューバ家にある珍しい宝石や耐熱性能のある毛皮の一部なんかはこの辺りで採れたものでしたわ。貴族が欲しがるものも手に入るのであれば、確かに村を作るメリットは大きそうですわね。にしても、暑いですわ」
リーゼロッテは手を扇の代わりにして自分の顔に風を送る。
彼女の額や首元にはうっすらと汗がにじんでいた。バトルドレスはそれなりに厚みがある。俺の防具よりも熱がこもってそうだ。
「だいぶ火山に近づいてきたからな。そろそろ魔法を使うとするか。『フロストブレス』」
魔法の効果により俺とリーゼロッテの周りの空気が低くなっていく。少し前まで俺たちの肌に当たっていた生暖かい風も涼しいものへと変化した。
「あら、とても快適になりましたわ」
そう言いながら、リーゼロッテは香水を自分の身体や衣服に振りかける。
「エルプティオ村に到着するまで時間があるし、歩きながらこの魔法を教えてあげよう」
「お願い致します」
手本を見せながら魔法のレクチャーをしていく。リーゼロッテはエルプティオ村が見えてきた所で魔法を習得した。
「やはり、リゼには魔法の才能がある。特に、氷属性や水属性の適性が凄まじく高い。勇者ではないはずだが、迷い人である事となんらかの関係があるのかもしれないな」
「そうなんですの? 確かに、魔法の上達度合いが高いと褒められた事は何度もあります。けれど、そこまで高度な魔法は使えませんわ」
「伝説の勇者ほどではないにしても、リゼが使えている魔法の中には習得に大きな時間のかかるものも多いぞ。ウォーターカノンとか魔力感知なんかをまともに使える者は冒険者の中でも少ないからな」
「私が元いた世界には魔法が存在しなかったのに、どうして今の私は魔法が使えるのでしょう? 不思議ですわね。そもそも、なぜ私のように前世の記憶を持った転生者がこの世界に存在しているのかについても気になりますわ」
「うーん、それはさすがに俺でも分からないな」
「動くな!!!」
エルプティオ村の外壁近くまで到着した所で、急に村の方から怒声が上がる。
見ると、村の物見
「お前たちは何者だ!」
門の前にいるリーダー格らしき男が尋ねてくる。
「俺たちは冒険者だ。エルプティオ村にはラグナロクドラゴンを討伐するために来た」
その後も俺とリーゼロッテはリーダー格の人物に自分たちの素性を明かしていく。
「冒険者ギルドの職員が言っていた人物の素性と完全に一致するな。村に入って良いぞ。おい、門を開けろ」
「ヴァルガス村長、こんな時期に部外者を招いて大丈夫なんですか?」
「少し前に来たギルド職員の話によると、彼らは皇帝陛下の推薦を受けているらしい。断れるわけがないだろ」
「そうですね。すいません」
男たちは警戒を解き、武器を下ろすと村の入り口にある木製の扉を開いた。
「よそ者が村に訪れた時はいつもこんな感じなのか?」
俺はヴァルガスと呼ばれた男に尋ねる。
「まさか。今は村人全員が疑心暗鬼になっているから、部外者に対する警戒も強化してるのさ」
「疑心暗鬼?」
「あんたには関係のない話だ。ラグナロクドラゴンの討伐に来たって話だが、すぐに討伐へ向かうわけではないよな?」
「もちろん。数日は準備に時間を費やすつもりだ」
「なら俺について来い。宿まで案内してやる」
俺たちはヴァルガスの後を大人しくついて行く。木造建築の多い帝都と異なり、エルプティオ村の家々は多くが石造りになっていた。
石造りではあるものの、外壁や扉には精巧な彫刻が施されているため、あまり無機質な感じはしない。
きっと腕の良い彫刻師がいるのかもしれないな。村の中は思ったほど暑くはない。おそらく、何らかの魔道具を使って気温を下げているのだろう。
立派な建物とは対照的に、村人たちはあまり活気がないようだった。
肉体労働に従事している者が多いためなのか、身体つきはしっかりしている。
けれど、なにかに怯えているような表情をしている者や、徹夜明けをしたかのように目が充血している者、死人のように青ざめている者などが多い。
ヴァルガスは村人たちが疑心暗鬼になっていると言っていたが、それと関係があるのか?
「なにか、嫌な雰囲気ですわね。先ほどからいくつもの視線を感じます」
リーゼロッテは前を歩くヴァルガスに聞かれないよう、小声で俺に耳打ちしてくる。
「ああ、さっきからすれ違う人達にじろじろ見られているな。それに、建物の影からも嫌な気配を感じる」
「私たちが部外者だから警戒しているのでしょうか?」
「元々閉鎖的な村なようだし、それもあるのかもしれないが、やはりヴァルガスの言っていた事が気になるな。この村は何かしらの問題を抱えているのかもしれない」
「何かしらの問題?」
「ああ、もしかしたら悪魔絡みかもな」
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