第40話 昇格試験開始

「リオンさん」


「なんだ?」


冒険者ギルドの応接室にあるソファで座っていると、リーゼロッテに声をかけられる。俺たちはこれからギルド長のアルバより、昇格試験の説明を受ける予定だ。


「これ、お渡ししますわ」


リーゼロッテから一冊の本を渡される。タイトルは『最近買った性奴隷の精力がハンパない件』だ。


「さっきは読ませないとか言っていたのに良いのか? 冒頭しか読んでないから、確かに続きが気になるが」


「構いませんわ。少し、いいえ、かなり恥ずかしいですけど、リオンさんにはお世話になっていますから。それに、いずれ誰かに感想を聞きたいとも思っておりましたの」


「そうか。なら、しっかり読ませてもらおう」


「あ、でもここでは開かないでくださいまし! リオンさん以外の誰かに見られたくはないですわ!」


「分かったよ。それなら時間のある時にでも読んでおくさ」


俺はリーゼロッテから受け取った本を魔法の袋にしまった。


「おーい。入って良いかね?」


扉を叩く音と共に、部屋の外からアルバの声が聞こえてくる。


「大丈夫だ」


アルバが部屋に入ってくる。彼の肩には小さな鳥が乗っかっていた。鳥は鮮やかな赤い羽根を持っており、瞳はりんで燃えている炎のように青い。


「すまんすまん。少し雑務があったせいで遅れてしまった」


アルバは向かい側のソファに座る。


「いえいえ。構いませんよ。それで、その肩に乗っている鳥は?」


「紹介しよう。彼女の名前はソラスだ。種族は不死鳥でね、高い自己再生能力を持ち、火魔法を扱うことができる最強の鳥だよ。私自慢の従魔だ。ほらソラス、挨拶をしなさい」


「キュイッ! キュイイー」


ソラスと呼ばれた不死鳥が愛らしい声で鳴く。


「人の言葉も理解できるのか。優秀だな」


「そうだろう? まあ、話す事はできないがな」


「それで、この不死鳥を俺たちに紹介したのはなぜなんだ?」


「ソラスは賢い鳥だ。おまけに死ぬ事もない。だから彼女には君たちの試験官を務めてもらう」


「試験官? つまり、私たちがオリハルコン級冒険者に相応しいのかどうかをこの鳥が決めますの?」


「いや、最終的に君たちがオリハルコン級冒険者に相応しいのかどうかを決めるのは私だ。けれど、ソラスには君たちに同行して貰う事で試験に不正がないかどうかを監視して貰う。昇格試験終了後にソラスの記憶を覗き見る事で不正があったかどうかはすぐに分かってしまうぞ。まあ、皇帝陛下の推薦を受けた君たちであれば不正なんかしないだろうが、規則として試験をやる時には監視員が必要だからソラスにそれを担当して貰う」


「なるほどな。で、昇格試験はどんな内容なんだ?」


「リオン君とえーと、もう1人の名前は……」


「申し遅れましたわ。私の名前はリーゼロッテでしてよ。よろしくお願いしますわ」


「そうでした、これは失礼。元公爵令嬢であるというインパクトが強すぎて肝心の名前を忘れてしまっていた。申し訳ない。なぜ公爵家を追われたのかは知らないが、冒険者にならなければいけないとは、災難でしたな」


「私の事を知っておりますの?」


「もちろんだとも。何せ、皇帝陛下からリオンくんと共にオリハルコン級冒険者へ昇格させろと要請のあった人物だからね。リーゼロッテくんには悪いと思っているが素性はこちらで調べさせて貰った」


「そうでしたのね。あまり良い気はしませんわ」


「許して欲しい。皇族の寵愛を受けた奴が冒険者ギルドで問題を起こした事が過去にあったんだ。ギルド長として、素性や人間性の分からない人間をオリハルコン級冒険者に昇格させたくはない。仮に皇帝陛下からの推薦を持っている人物であってもだ」


「そういう理由がありましたのね。なら、これ以上は文句を言いませんわ」


リーゼロッテは引き下がる。


「話がそれたな。昇格試験の内容はラグナロクドラゴンの討伐だ」


「ラグナロクドラゴン。鋼のような硬いうろこに覆われた巨大なドラゴンか。確かに、骨の折れる仕事になりそうだ」


「私もラグナロクドラゴンの事は知っていますわ。体色は燃え盛るような赤で、目は青く輝いているとか。そして空を自由自在に飛び回りながら炎のブレスや鉤爪で襲ってくる凶悪な魔物。確か、生息地は帝都よりも東の土地ですわよね?」


「うむ。なので君たちには帝都の東にあるヴェスブラウ火山でラグナロクドラゴンの討伐を行ってもらう。ヴェスブラウ火山の麓にはエルプティオ村がある。そこで討伐のための準備などをすると良い」

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