第38話 報酬
「テューバ公爵、並びにリオン殿。この度は真に大儀であった」
声をかけてきたのはシュヴァン帝国の主である皇帝陛下だ。俺とリーゼロッテは今、テューバ公爵とともに玉座の間にて頭を下げている。
「いえいえ。私は我が家に侵入した賊を倒したまで」
テューバ公爵がへりくだる。
「我々も、帝都に住む者として当然のことをしたまでです」
俺とリーゼロッテもテューバ公爵に合わせてかしこまった態度をとった。
「謙虚なことだ……。さて、早速だが本題に入るとしよう。頭を上げて良いぞ」
そう言って皇帝陛下が口を開く。
「今回の一件で、余は帝国の治安にも穴がある事が分かった。ヴェスペル伯爵及びその一味は監獄に幽閉し、鮮血の
テューバ公爵は少しの間
「では、私の一族の者を帝都の法務省で働かせて頂きたい。ヴェスペル伯爵一味が逮捕された影響で、ポストに空きがあるでしょうから」
「良かろう。余の権限によって最初から高いポストに就任させる。ただし、能力がないと余が判断した場合は即刻解雇する」
「構いません。私は陛下に長女であるマリアを推薦する予定です。彼女は優秀なので、気に入ってくださるかと」
「そうか。期待しておく。他に要望はあるかね?」
「いいえ」
「では続いてだが、1級祓魔師のリオン殿とその従者であるアリシア殿の2人は何が欲しい?」
「陛下、私はもう祓魔師ではありませんよ」
「そう言えばそうであったな。最強と名高いあのリオン・ダーンズが破門されているというのは奇妙な話よ」
「確かに私は多くの悪魔と戦い、彼らを滅ぼしてきたために最強と呼ばれています。けれど、私には人を守る才能がありません。それが災いした結果、責任を取ることになってしまったのです」
「ふむ。風の噂で経緯は聞いておるが、責任があったとはいえ、優秀な祓魔師を国外へ追放するはめになった教皇は今頃頭を抱えているだろうよ。奴の苦悩する顔を想像すると笑いが止まらん! ……話しがそれたな。ではお主らは何を望む」
「では、私たちにはオリハルコン級冒険者となる機会を頂きたいです」
俺はまだ銀級冒険者だし、リーゼロッテに至っては鉄級冒険者だ。依頼はパーティ内で最もランクの高い冒険者より1段階上の依頼しかこなせない。
そのため、俺たちは金級より上の依頼を受けることができないわけだ。俺としてはもっと高位の依頼も受けたいため、こうして皇帝陛下にお願いしている。
高位の依頼の中には悪魔絡みの物も存在しているだろうしな。
「そんな事で良ければ力になろう。オリハルコン級への昇格試験を受けるためにはかなり多くの依頼をこなす必要があるが、そんなものは余の権力によって免除させる。心配せずとも、余とギルド長のアルバは親しい。余の命令とあらば奴も断れないだろう」
「ありがとうございます」
俺とリーゼロッテは頭を下げる。
「ふむ。しかし2人はテューバ家で賊を捕らえるさい、大きな活躍をしたと聞く。そこで他にも褒美を与えようと思う。なにか欲しい物はあるか?」
「そうですね。アリシアはなにかあるか?」
「いいえ。私には特に欲しい物がないのでリオンさんが考えて良いですわ」
「分かった。皇帝陛下、お聞きしたいことがあるのですが」
「申すが良い」
「鮮血の
「例の薬は鮮血の
「なるほど。では、私は透明薬を皇帝陛下から購入する権利が欲しいです」
「ふむ」
皇帝陛下は片手を
「良いだろう。あまり外部に透明薬を流したくはない。だが、お主なら問題ないだろうな。だが、代わりにこちらからも頼みがある」
「どういったご要件でしょうか?」
まずい。皇帝陛下からの頼みとなると、無謀な依頼であったとしても断れないぞ。
おまけに、皇帝陛下は俺が破門された件を知っている。そのため、俺がアムナー法国に居場所がないことを理由に足元を見てくる可能性もあるぞ。
情勢が安定しており、住民の多数が人族である法国と帝国両方からつまはじきにされてしまったら本当に困るからな。
「安心するが良い。余は別に無理難題を押し付けようと思っているわけではない。お主は一般的な騎士や冒険者には倒せないような存在を度々討伐してきた。そこでだ。もし帝国が特殊な存在に襲われたさいは力を貸して欲しい。今回のようにだ。当然報酬ははずむし、透明薬の他に欲しい物があるのなら余に言うが良い。可能な限り用意しよう」
「そういう事ですか。分かりました。何かあれば私たちも帝国のために働きます」
今現在、俺に取り組んで欲しい問題があるわけではないのか。とりあえずほっとした。
まあ、今後厄介な事に巻き込まれそうではあるものの、皇帝陛下の人柄的にそれなりの配慮はしてくれそうだ。
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