第32話 闇ギルドと伯爵の関係
「という事がありましたの」
「そうか。やはり透明薬を使った人間は魔力感知に引っかからないわけか」
俺は帝都の情報屋から鮮血の
その間にリーゼロッテが透明人間と戦ったらしい。
リーゼロッテは迷い人だからか、魔法に対して大きな才能がある。そのために、そこらの魔法使いよりも魔法を上手く使いこなしている。
彼女が魔力感知を使えば透明人間たちを知覚できるのではないかと思ったが、だめだったか。それだけ透明薬というのは優秀なんだな。
「ところで、リオンさんは帝都の情報屋を使って、鮮血の
「分かったことがいくつかあるぞ」
俺は1枚の紙切れを机の上に置く。
「これは……この世界にも写真がありますのね」
「この写真は勇者の世界にある技術を模倣したものだから、写真機がこの世界にあるわけではないけどな。これは現像魔法という魔法で俺の記憶を紙に写したものになる」
「そうなのですね。これはどこの写真ですの? どこかの屋敷のようですけれど」
写真は豪華な屋敷を写したもので、屋敷の玄関には複数人の人々が屋敷の主人と思われる人物に招かれている。
「俺は情報屋からヴェスペル伯爵の屋敷がどこか聞きだした後、屋敷前に張りついていたんだが、これはその時の記憶だな。人々を招いているのが屋敷の主人であるヴェスペル伯爵だ」
「これが……。彼が招いている人々は何者ですの?」
「俺も気になって調べたんだが、どうやら鮮血の
「なら、テスティスが言っていたことの裏が取れたことになりますわね」
「そうだな。おまけに、鮮血の
「真っ黒ですわね。闇ギルドと手を組むなんてどうかしていますわ」
「あー、一応ヴェスペル伯爵が闇ギルドと手を組んだ理由も分かったぞ」
俺は別の写真を机に置く。今度の写真はヴェスペル伯爵が
「ヴェスペル伯爵は金づかいが荒いらしくてな。以前は借金も作っていたらしい。それが最近は借金を全て返済した上に、相変わらず酒池肉林な生活を送っているそうだ。あまりにも羽振りが良いため、周囲の貴族たちは不審に思っているみたいだな」
「こうした情報だけですと、ヴェスペル伯爵が鮮血の
「リゼがしっかりと聴力強化を使いこなせるようになったし、ヴェスペル伯爵の屋敷に2人で潜入しよう。しっかりとした証拠があれば、彼も無罪放免とはいかなくなるはずだ」
「良いですわね。でも、私は路地裏で透明人間たちを取り逃してしまいましたわ。屋敷の警戒が強化されていないと良いのですけど」
「奴らも自分たちの屋敷に潜入されるとは思っていないだろうし、おそらく大丈夫だ。屋敷の警戒網が高かったらその時に考えよう。あとはそうだな。近くの宝石店が狙われていたことだし、衛兵に見回りを強化するよう要請しておくか。俺にはテューバ家の書状があるからな」
テューバ家の書状さえあれば、衛兵に安楽亭周辺の警備をさせることくらい朝飯前だ。
「私の正体を暴いたことで入手した書状を使うのですね。うう、複雑な気持ちになりますわ」
「まあ、これも世の中のためだ。透明人間がいたから警戒を強化しろ、などと衛兵に言ってしまうと、ヴェスペル伯爵に目をつけられてしまうかもしれないな。ここは路地裏で魔法の練習をしていた頭のおかしい少女がいたから見回りを強化するように要請しておこう」
「なぁ!? あなたって本当に最低な人ですわ!」
◆◆◆◆◆◆
草むらは地面が盛り上がっているため、ここからであれば門兵に気づかれることなく、ヴェスペル伯爵の屋敷とその周辺を監視することができる。
正門前には2人の槍を持った兵士が立っており、異常がないか周囲をうかがっている。
「彼らは手練のようですわね。隙がありませんわ」
「とはいえ、裏門はもっと警備が厳重だし、屋敷を囲んでいる
「力技で倒しますか?」
「いや、下手に攻撃してしまうのはまずい。魔法で侵入者が来たと連絡を入れる可能性もあるからな」
「では、どうやって侵入しますの?」
「もうすぐ、館に食糧を積んだ馬車が入っていくはずなんだ。念入りに調査をしたから間違いない。それにこっそり乗り込むぞ。商人の馬車はヴェスペル伯爵の屋敷ほど警備が厳重ではないからな」
「乗り込んだとしても、すぐにバレてしまいそうですけれど……」
「大丈夫だ。馬車が館に近づいてきたぞ。俺に着いてこい」
俺は自分とリーゼロッテに身体強化魔法を付与し、高台となっている草むらを一目散に降りていく。
身体強化魔法で付与した俺とリーゼロッテはすぐさま馬車に追いつく。そして誰かに見られないよう周囲をうかがいながら後部の扉から馬車の中に侵入した。
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