第29話 フィニス村で起きた事

「ふむ。依頼を受けるかは分からないが、話は聞こう」


「ありがとうございます。お願いの前に、まずはこの村で起きた事を話す必要がありますね。御二方はこの村が何者によって襲われたのかを知っていますか?」


「それくらいは知っていますわ。盗賊たちの軍勢が村を襲ったのでしょう?」


リーゼロッテが淡々と答える。


「確かに、彼らは野盗の類だったのでしょう。しかし、おかしいと思いませんか?」


「おかしい? 盗賊が防御の薄い村を襲うこと自体は良くあることだろ?」


「そうですね。しかし、ここは比較的帝都からも近い地域ですよ?」


「言われてみれば、この村を一晩で壊滅させるような盗賊がいるのは不自然ですわね……」


「どういう事だ?」


シュヴァン帝国に来たのが最近だからリーゼロッテとテスティスがなにを言いたいのか分からん。


「帝都周辺は帝国内でも比較的治安が良いのですわ。なぜなら、帝都近辺で狼藉を働こうものなら、皇帝直属の近衛騎士団に制圧されてしまいますもの」


「リゼさんの言う通りです。通常であれば、フィニス村を襲ったような規模の大きい盗賊団はすぐに討伐されてしまうものなのです」


「私は名乗った記憶がないのですけれど」


「すいません。お二人の会話を密かに聴いておりましたので」


「リゼというのは略称でしてよ。私の正式名はリーゼロッテですの」


「これは失礼いたしました」


テスティスは頭を下げる。


「分かれば良いのですわ」


「話を戻すが、つまり、フィニス村を襲うように手引きした者がいるわけだな? それも、近衛騎士団の巡回ルートを把握できるような立場の人間が」


「私が伝えたかったのはそういう事です」


「きな臭いな。一体、この村はなぜ狙われた?」


「全ての始まりは、スコーラ様が透明になれる薬を開発したことがきっかけでした……」


テスティスの話が続いていく。彼女の話をまとめるとこうだ。ある時、スコーラは透明化のできる塗り薬を作った。


しかし、透明化できるといっても不完全なものだったらしい。


透明になれる時間はあくまで少しの時間だけだし、透明といっても、身体や衣服がガラスや水晶のように透き通って見えるだけだ。


そのような状態なため、とても隠密行動で使えるような代物ではない。


スコーラは仲間の錬金術師や知り合いの貴族などに透明になる薬を作ったとは言わなかった。


今後、もう少し研究が進めばより実用的な透明薬が作れると考えたからだ。だが、研究にはとにかく金がかかる。


そのため、スコーラは怪しげな金融業を営む男から金を借りてしまう。借りる際には確実に資金を得るため、透明薬のこともくちばしってしまったようだ。


その後、金融業を営んでいた男の上司が透明になれる薬に興味を持ち、スコーラは監禁されそうになるも、なんとか逃げだす。


しかし、追ってはしつこく、フィニス村に戻ったところで追いつかれ、村人もろとも殺されてしまったようだ。


だが、スコーラは殺される前に魔石を使い、テスティスを起動した。


そしてテスティスに事の顛末を話し終えたところで部屋の扉が破られ、盗賊が流れ込んできたそうだ。


部屋は荒らされ、めぼしいものは全て盗まれた。しかし、テスティスは姿をあらわさず、じっとしていたためか唯の人形だと思われて見逃されたらしい。


「以上が、この村で起きたことの全てです」


「そうか。それで、俺たちに依頼したいことというのは?」


「どうか、あなた方にはスコーラ様を襲った者たちの悪事を暴いて欲しいのです」


「相手の名前は分かっているのか?」


「はい。金融業を営んでいた男の名前はマルン。彼の所属していた団体は鮮血の蝙蝠コウモリという闇ギルドです。そして、そのギルドを影で操っていると思われる人物が、ヴェスペル伯爵という、帝都の法服貴族だと言われています」


「言われているって……。つまり、断定はできないということですの?」


「そうです。スコーラ様も探りを入れてはいたようなのですが、組織の全貌を掴むことはできませんでした」


「黒幕がはっきりしていないのでは、検挙するのが難しいと思いますわ。伯爵位の貴族が相手であるのなら尚更」


「ならば、せめて鮮血の蝙蝠コウモリだけでも壊滅させられないでしょうか。お願いします」


「ああ、分かった。引き受けよう」


「なんとかなりますの?」


「任せておけ。俺に策がある。それに、鮮血の蝙蝠コウモリを放置しておくと帝都が荒れてしまう」


「どういうことですの?」


「ほら、冒険者ギルドをでる時に受付嬢が言っていただろ。帝都に透明人間が現れて盗みを働いていると」


「つまり、帝都で盗みを働いている者たちの正体は……」


「間違いなく、鮮血の蝙蝠コウモリたちの仕業だ。最近になって実用的な透明薬の開発に成功したのだろう」


「実は私、リオンさんがフィニス村の依頼について手続きをしたり情報集めをしている間、透明人間のことについて調べていたのですけれど……。彼らは貴族や大商人、聖職者の住居にもたびたび侵入しているようですわ」


「帝都の法服貴族――それも伯爵位の人間が帝都の上流階級に対する犯罪に関わっているだなんて大事件だ。けれど、俺たちが帝都の警備団や近衛騎士団に報告してももみ消される可能性が高い。なにしろ、相手は近衛騎士団の動向を把握できる上に、盗賊団を作れるほどの武力もあるからな」


「そんな権力者を相手にして大丈夫ですの?」


「手はあるさ」

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