第28話 少女の正体

「ようやくおでましになったか。何者なんだ?」


 俺は腰に下げているショートソードに手を当てる。横目でリーゼロッテを見ると、彼女は魔法をいつでも放てるよう、体内で魔力を練っているようだった。


 相手は魔力の幻覚だとはいえ、何をしてくるか分からないため警戒せざるを得ない。


 俺のショートソードはオリハルコン製なので幻覚でさえ切り裂けるし、リーゼロッテの魔法も魔力の集合体である少女の存在を不安定なものにできるはずだ。


「お待ちを。私はあなた方に危害を加えるつもりは全くありませんし、そのような力もありません」


 魔力感知を用いながら、少女をじっと見つめる。少しの間、沈黙が場を支配した。


「確かに、こちらに何かをする意図はないようだな」


 俺はショートソードの鞘に手を当てるのをやめる。リーゼロッテもそんな俺を見て魔法の準備をとりやめた。


 まあ、少女は壁を通り抜けられるわけで、本気でこちらを害するつもりなら、これまでにも攻撃する機会はあったはずだ。


 少女のことはある程度信用しても良いだろう。


「で、姿を見せながら俺たちをこんな所に呼び寄せた理由はなんなんだ?」


「それをこれからお話したいのですが、まず初めに、私の方から質問しても良いですか?」


「まあ良いだろう」


「では、あちらにある石を持ってください」


 少女の指し示したテーブルには、無色透明の水晶が置かれていた。


「これは……判定石ジャッジ・ストーンか」


 判定石ジャッジ・ストーンは質問された者が本当の事を言えば青く染まり、嘘を言えば赤くなるという特殊な石だ。


「では、質問を始めます。あなた方はなぜ、誰も住まなくなったこの村に来たのですか?」


 俺は正直に冒険者ギルドから依頼を受けた経緯を語る。判定石ジャッジ・ストーンは青く染まった。


「本当のようですね。では、続いて、依頼してきた者の名前を教えてください」


「冒険者ギルド内で公開されていた依頼とはいえ、依頼主の名前を簡単に教える訳にはいかない」


「それもそうですね。では、どうしたら教えて頂けるのですか?」


「こちらからいくつか質問するので、それに答えてくれ」


「良いでしょう」


 少女はこちらに近寄ると、俺の持っている判定石ジャッジストーンに手を当てる。


「では、質問するぞ。なぜ、俺たちの依頼主を知りたい?」


「あなたの依頼主がフィニス村を襲った者である可能性があるためです」


 石の色は青だ。


「えーと、君はなんと呼べば良いんだ?」


「私のことはテスティスとお呼びください」


「テスティスはこの村から出ることはできるのか?」


「1人では無理です。私の本体である人形を動かせば、私も別の所に行くことができます。とは言え、その場合も本体の人形からあまりにも遠い所へは行けません」


「つまり、テスティスは人形によって作られた幻術のようなものなのか?」


「幻術というより、魔法生物と言った方が正確かもしれません。私を創造されたこの村の村長、スコーラ・ドゥックス様は錬金術とオートマタの研究をされていたのですが、ある時思いついたのです。2つの研究を組み合わせれば面白いものが作れるのではないかと」


彼女の話を要約すると、オートマタに錬金術で得た擬似生命を搭載したらかなり有用なのではないかと考えたらしく、それで誕生したのがテスティスらしい。


しかし、テスティスを幻影として生みだす術式と、オートマタを動かす術式が干渉してしまい、オートマタ自体は動かないただの人形と化してしまった。


つまり、2階にあるテスティスの本体は本当にただの人形でしかない。


ちなみに、判定石ジャッジストーンはずっと青く輝いていた。


「どうやら本当の事みたいだな。水晶を貸してくれ」


俺は再び判定石ジャッジストーンを手に取る。


「自由に動けないというのであれば、俺たちの依頼主を教えよう。キャニス伯爵とカットス男爵だ」


この2人は封建貴族で、フィニス村を挟み込むようにして領土を持っている。


そうした事から、今回、交易を発展させるために、フィニス村近辺も通る街道を作る予定らしい。


「分かりました。その御二方はおそらくフィニス村襲撃とは無関係なのでしょう。安心しました。私はあなた方にお願いしたいことがあるのです」

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