第26話 屋敷へ侵入
中心部にある屋敷は二階建てになっており、庭には噴水が取り付けられていた。
一般的な村人が住む家が1階建てな上に庭もないことを考えると、それなりに裕福だったことが分かる。
さきほどまであった何者かの気配はすっかり息を潜めていた。
「どこかで待ち伏せしてるかもしれない。気をつけよう」
「分かりましたわ」
庭を歩き、重厚な鉄扉の前に到着する。魔法が放たれた後なのか、扉は少しだけ凹んでいた。
「誰かがいるのであれば、扉を開けた瞬間に飛び道具が飛んでくるかもしれませんわね」
「そうだな。もしかしたら扉自体に細工があるかもしれない。後ろに下がって魔法を放つ用意をしておいてくれ」
「ええ」
俺は『魔力感知』や『解析』を用いつつ、じっくりと鉄扉を眺めていく。扉など、建物の一部に魔法的な細工が施されている場合、微弱な魔力を感知できることがある。
ただし、一流の魔法使いが施した罠を見抜くのは至難の業だけどな。
一通り見た結果、扉自体に異常は見つからなかった。ただし、鉄扉自体は壊れており、鍵がかかっていない。おそらく、賊が無理やり壊したのだろう。
「大丈夫そうだ。扉を開けるぞ」
リーゼロッテには引き続き後ろから警戒して貰いつつ、ゆっくりと扉を押す。
扉を開いた先は、開放的なエントランスになっていた。しかし、あちらこちらに家具が散乱している。
天井にあったと思われるシャンデリアは見るも無惨な形で床に落ちていた。
奥の方には廊下と2階へ続く螺旋階段が存在している。
「まずは1階から探索ですわね」
「ああ。床にはガラス片なんかも沢山落ちている上に、それらがホコリや砂のせいで半分埋もれているな。俺たちの丈夫な靴なら問題ないだろうが、注意して進もう」
もしかしたら靴の隙間から破片が入り込んでくるかもしれないしな。
俺とリーゼロッテは1階を探索していく。1階は居間や台所、浴場、使用人の寝室などがあったものの、特にめぼしいものはなかった。
「村での生活といえど、それなりに良い生活をしてたようですわね」
「村長は世襲じゃないものの、領地を継げなかった貴族の次男三男や庶子が就任する場合が多いからだな。おまけに、彼らは村の防衛を担う代わりに村人から徴税をすることも認められている」
「下級貴族はそうでしたわね。テューバ家の場合、次男三男以下は法服貴族や聖職者、学園の教師などに就くのが基本でしたわ」
「大貴族の子供が村長になるのは外聞が悪いものな。次は螺旋階段を登っていくか」
◆◆◆◆◆◆
螺旋階段を登った先には一本の長い廊下があった。寝室や書斎などの小さめな部屋が螺旋階段近くに並んでおり、奥は図書室とワイン貯蔵庫になっている。
長い廊下の先は橋になっており、屋敷の裏手にある離れに繋がっていた。
小さめな部屋の探索も行ったものの、特に何も無かったため、図書室へと入っていく。
「キャッ!?」
「どうした?」
「何かがほおに触れる感覚があって驚いたのですけど、クモの巣でしたわ」
嫌そうな顔をしながらリーゼロッテはクモの巣を手で払う。
「しかし、ここは一段と酷いな」
これまで見てきた部屋もかなり破壊されていた上に、価値のあるものは全て盗まれていた。
だが、この図書室は激しい戦闘があったためか、あちらこちらの床に穴が空いていたり、何個もの本棚や
「少し広いし、手分けして探索していこう。念の為、残っている書物があれば集めてきてくれ。何かの参考になるかもしれないし、もしかしたら帝都で売れるかもしれない」
「なら、私は右の方から探索を始めますわね。リオンさんは左側からお願いします」
「承知した」
俺は近くにあったバリケードへと近づく。奥に行くためには壊さねばならない。
「エア・シュレッダー」
バリケードを構成していた本棚や
ただの細かい破片の山となったバリケードの上をゆっくりと歩く。
バリケードの先も本棚が倒れたりしているが、なんとか通ることはできそうだ。
俺は近くにあった本棚に収められている一冊の本を手に取る。戦闘のためか、ところどころが破れているため、売り物にはならないだろう。
「これは錬金術の教科書だな」
錬金術とは、様々な薬品や物質を混ぜたり加工することで有益な物質を新たに生みだす魔術の一種だ。
元々は人工的に金を作りだすことを目的に編み出されたから錬金術と呼ばれている。
俺が手に取った錬金術の教科書はかなり一般的なもので広く普及しているものになる。
「この屋敷には本が沢山あるが、錬金術や物質に関するものが多かったな」
ここの主人が錬金術師だったらしいので当たり前といえば当たり前なわけだが。
念の為、錬金術の本を魔法の袋にしまう。再び歩きだすと、他の本棚にもたれかかっている本棚に遭遇する。
俺は身をかがめながらゆっくりと本棚の下を通り抜ける。通り抜けた先は床の損傷が酷かったため、これまで以上にゆっくりと歩く必要がありそうな状態だった。
足元を見ていると、視界に白い靴のようなものが映りこむ。
「誰だ!?」
俺はショートソードを抜いて顔を上げる。くそっ。気配をほとんど感じなかったぞ。
目の前にいたのは黒髪金眼の少女だった。まっすぐにこちらを見つめているものの、表情にとぼしく真顔だ。
彼女は白いワンピースに黒いスカートを履いている。少女はまるで滑るようにしながらすーっと移動した。
「待て!」
俺は少女の後を追いかける。
ガタン。
「うぉっ」
しかし、劣化の進んでいた床を踏み抜いてしまい、1階へ落下しそうになる。
慌てて2階の床を掴むことで難を逃れたが。
少女は近くにあった本棚を通り抜けていった。俺は床穴からはいでて少女が通り抜けた本棚を見る。
いたって普通の本棚だ。仕掛けなどは施されていない。今のは明らかに人間じゃないな。
というより、今の少女が向かった方角は――。
「だ、誰ですの!? 動かないでくださいまし!」
やはり、少女はリーゼロッテのいるところに向かったらしい。
「か、壁の中に消えた!?」
図書室にリーゼロッテの声が響き渡る。
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