第3章 錬金術師の亡霊
第24話 新たな依頼と帝都を脅かすなにか
「この、さっさと開けやがれ!」
ならず者の集団が扉を壊す音が部屋中に響き渡る。
「もはやこれまでか……」
フィニス村を急襲した盗賊の一団は村長であるスコーラ・ドゥックスの邸宅にも押し寄せていた。
村の門を護っていた見張りはとっくのとうに死に絶えている。
今は散発的に村の猟師を中心とする男衆がささやかな抵抗を続けているようだが、いずれ盗賊たちに滅ぼされるだろう。
「くそっ。うかつだった。金のために自分の研究成果を言いふらしてしまった結果、村をこんな目に合わせてしまうとは」
村長であるスコーラは錬金術師であり、様々な魔道具の作成に通じていた。才能のあった彼はこれまでにいくつもの発明を行っている。
しかし、研究にはとにかく金がかかる。だが、スコーラがこれまでの発明で得た収入はわずかしかない。
そこで彼は金を借りるために研究成果を怪しい者たちの前で披露してしまっていた。
「仲間の錬金術師たちも今頃この世にはいないだろう。このままでは私の研究が悪用されてしまう。何か手は……」
スコーラは散らかった自らの室内を見回す。部屋には沢山の魔術書や実験器具が雑多に置かれていた。
「ん? そう言えば」
部屋の隅に置かれていた木箱の蓋を開ける。中に入っていたのは精巧に作られた少女の人形だった。
黒髪に金眼の人形はまるで生きているかのように精巧に作られている。
「錬金術師である私がもしかしたらいずれ盗賊以外の誰かが来るなどという不確定要素に期待するのはどうかと思うが。他に方法はないな」
スコーラは人形のうなじにある溝に魔石を突っ込む。そして人形を起動させると、目の前で独白を行う。
バキンッ!
彼が言い終えるのと同時に扉は破壊され、盗賊たちが部屋に流れ込んだ。
◆◆◆◆◆◆
リーゼロッテが俺の指定した3つの試練を無事こなした数日後、俺は冒険者ギルドの扉を開いた。
もちろん、リーゼロッテも一緒にいる。今日は彼女の冒険者登録をした後、すぐに手頃な依頼を受注する予定だ。
受付に向かっていると、酒を飲んでいた集団の1人と目が合う。彼は大男なのにも関わらず、俺を見た途端顔を青くする。
周りの取り巻きたちも、俺の姿を認めると会話をやめ、視線を下に向けて俺と目を合わせないようにしだした。
「リゼ、少しの間そこで待っててくれ」
「分かりましたわ」
俺は大男たちの所へと近づく。
「やあマザン、久しぶりだな」
顔を青くしているのは金級冒険者パーティのリーダーを務めるマザンだ。
「へへ、久しぶりですね……」
俺が初めてここの冒険者ギルドに足を踏み入れた時とは違い、腰を低くして俺に頭を下げる。
「この前はすいませんでした!」
「ああ別に謝罪を求めてるわけじゃない。ただ、俺もやりすぎてしまったと思ってな。様子を見に来ただけだ」
「その事についてなら、なんの問題もありませんぜ。俺は丈夫ですから。昨日も大柄なオーガを討伐しました」
「なら良かった。俺はまだ冒険者になりたてだからな。何かあった時は相談したい」
「もちろんですぜ! なあお前ら」
取り巻きたちも必死にうなづく。
「ありがとう。それじゃあ」
俺は手を振りながらその場を離れる。そしてチラリと周囲をうかがった。
下卑た目で俺とリーゼロッテを見ていた冒険者たちはすぐに目線をそらし、何事もなかったかのようにその場を後にした。
おそらく、彼らは俺とリーゼロッテを襲いやすい新米冒険者だと思ったのだろう。
冒険者ギルドへおもむいた最初の日にマザンを倒したとはいえ、俺もまだ数回しか冒険者ギルドに足を踏み入れていないからな。
帝都は人口が多い分、冒険者の数も桁違いだ。そのため、見たことがない貧相な身体の男と、世間知らずそうな女を見て、襲撃しやすいと判断したのだろう。
冒険者という連中は民度が低い上に、社会からのはみだし者が多いからな。
何をされるか分かったもんじゃない。まあでも、紅蓮の流星と懇意にしているらしいという噂が広まれば、ちょっかいをかけられることはないはず。
わざわざ紅蓮の流星たちに絡んだのはそのためだ。
俺とリーゼロッテは受付の近くに貼られている依頼一覧を眺め、手頃なものがないか物色する。
もちろん、金級〜銀級相当の依頼の中で探している。本当はもっと上の依頼を受けたいが、昇格試験を受けるにはもっと依頼をこなさなければならない。
「あら、これはどうです?」
リーゼロッテが1枚の紙をこちらに寄越してくる。
「どれどれ。廃村の調査とそこにいる魔物や悪霊の討伐か。報酬も金貨15枚と多めだな」
依頼書によると、目的の廃村はフィニス村という名前らしい。
数年前、盗賊団に襲われたことで廃墟となったようだ。その際、村の物品は全て盗まれ、生存者もいなかったという。
しかし、廃村となったフィニス村からは時折物音が聞こえたり、何者かの人影が目撃されているらしい。そのため、地元住民は怖がって誰も近寄らないようだ。
そんなフィニス村の近くに街道を設置する計画があるらしい。だが、フィニス村に野盗や浮浪者、魔物などが存在していると街道の安全性が損なわれてしまう。
だからこの度調査を依頼する事にしたようだ。
「では、この依頼で決まりですわね」
「ああ。依頼理由についてもおかしな点はないし、依頼主もそれなりに社会的地位のある貴族だからな。良い案件だ。リゼも見る目があるじゃないか」
「明らかに見目麗しい表現が使われていましたから、それなりの御方の依頼なのかなと思いましたの」
「そういう事か。確かに、貴族と平民では使う言葉が違うものな」
俺とリーゼロッテは受付に行き、依頼を受けると伝える。受理されるのを待っていると、別の受付に人だかりができているのが目に入った。
受付といっても、一般的なものではない。緊急の依頼で尚且つ、大人数を募集する特設の受付だ。
「なあ、ちょっと良いか?」
俺は手続きを行っている受付嬢に声をかける。
「あの人だかりが気になるのですね?」
「そうだ。戦争か魔物の大量発生でもあったのか?」
「いいえ。そこまで物騒な物ではありませんよ。厄介ではありますけど」
「なにがあった?」
受付嬢は神妙な顔つきで答える。
「最近、帝都に透明人間が現れるんです」
「透明人間? 悪霊ではないのか?」
悪霊は透明化して人間に何らかの害を与えたり、騒音を引き起こすことがある。
「悪霊であれば魔力感知に引っかかりますよね? 帝都を荒らしている透明人間たちは魔力感知に引っかからないんです」
「それは妙だな」
普通、透明化した悪霊は魔力感知を行うことによって認識することができるからな。
「おまけに、透明人間は複数人で帝都にある宝石店からお宝をかっさらって行くんです。それも悪霊が好まない昼間に」
「大胆だ」
「はい。他にも役所から書類を盗んだあげくそれを闇市で売りさばいたり、牧場から家畜を勝手に盗んだりもしているそうです」
「なるほど。あまり悪霊のやるような行動じゃないな。金品や家畜を奪うというのは人間くさい。だからなんらかの方法で透明化する方法を見つけた人間の仕業である可能性が高いわけか」
「そういうことです」
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