第23話 試練の全クリ
「ここまで来れば仮にスケイルアーマーベアが沼からでてきたとしてもそう簡単には追ってこられないはずですわ」
だいぶ走ったおかげで周囲の地形は少し変わっていた。深い谷間を形成していた両側の崖は今や小屋の屋根ほどの高さしかない。
おまけに、谷間の幅も私が落下した地点の何倍も広くなっている。もう少しで日が沈んでしまうため、明るさは先ほどと変わらないのですけれど。
完全に日の暮れた木々の中を歩くのは危険ですわね。夜行性の魔物に襲われたらひとたまりもありません。
真っ暗闇になる前に、どこか安全な場所を見つけて野宿したいところ。
魔物の痕跡が多いような場所は避けたいですわ。
具体的に言うと、魔物の糞や足跡、けもの道などがあるところは仮に水辺であったとしても野宿するべきではない。
「ん? 足跡?」
妙ですわね……。
スケイルアーマーベアは私の潜む岩陰の前を通り過ぎたため、私はスケイルアーマーベアが現れた道に向かって走りました。
それなのに、これまで走ってきた谷間にはスケイルアーマーベアの足跡がありませんわ。
重量のある巨体によって作られた足跡を見落とすとは考えられない以上、明らかに不自然すぎます。
「そう言えば、山の中腹にいたはずのスケイルアーマーベアがどうしてこんな谷間に?」
わざわざ狭くて動きにくい谷間より、山の中の方が動きやすいはず。おまけに、ろくに植物もはえていないような谷間では獲物も見つかりにくい。
スケイルアーマーベアの事を考えている中で、私は先ほどスケイルアーマーベアが一瞬だけ巨大な岩のように見えたことを思いだす。
「もしかしてですけど」
私は自分の立てた仮説を頭の中で何度も
「可能性は十分に有り得ますわ。良く考えたら、あのリオンさんが何のヒントも与えずに自分を見つけろだなんて言うとは思えません」
彼は人間的に終わっていますけれど、あまり非合理的なことは好まないはず。
きびすを返して私は今まで歩いてきた道なき道を歩いていく。両側に崖があるため、迷う心配がないのでありがたいですわ。
しばらくの間歩いていると、やがてダンッダンッという音とともにスケイルアーマーベアがやってくる。その背中にはリオンさんがいた。
「見つけましたわ。これで3つ目の試練をクリアですわね」
◆◆◆◆◆◆
「そうだな」
俺は
「だが、1つ目と2つ目はどうなんだ?」
「白々しいですわよ。本当はどこかで私のことをじろじろ観察していたのでしょう?」
「なんだ。バレてしまっていたか。しかし、なんだ。その言い方だとまるで俺が変態みたいじゃないか」
「あら、乙女の部屋を物色して勝手に日記を取りだすあなたは変態だと思うのですけど」
「そうかもしれないが、
「な!? ずっともしかしてと思っていたのですけれど、私のコレクションも勝手に漁ってましたのね!」
「そりゃあ、鍵のついた怪しい箱に入っていたんだ。どんな本なのか気になるのは当然だろ? 『最近買った男奴隷の精力がハンパない件』とかいう小説も書いてたよな? 最近も続きを書いてるのか?」
「この人でなし!!!」
リーゼロッテは俺の胸元をポカポカと叩き出す。
「巨大ゴーレムを幻術でスケイルアーマーベアに見せ掛けるなんて、凄い人だと少しは見直してましたのに。うぅっ……。やっぱりあなたの事は嫌いですわ!」
「そうかそうか。話は変わるが、スケイルアーマーベアの正体が俺の操るゴーレムだとよく気がついたな」
「私がスケイルアーマーベアを沼に沈めた際、一瞬だけ巨大な岩のようなものを見ておかしいと思うようになったのですわ」
「なるほど。確かに一瞬だけ幻術が外れてしまっていたものな。すぐにかけ直したんだが、やはりバレていたか」
俺はジャイアントゴーレムにかけていた幻術を外す。ジャイアントゴーレムの外装はスケイルアーマーベアのものからゴツゴツとした岩へと変化していく。
四足の巨大な岩というのが、ジャイアントゴーレム元来の姿だ。
まあ、ジャイアントゴーレムというのは巨大なゴーレムの総称であるため、俺が所有していないだけで二足歩行のジャイアントゴーレムも存在はする。
「リオンさん」
「なんだ?」
「あなたはずっと私を密かに監視していたのですよね?」
「そうだぞ。なにか不測の事態が起きたとしても対応できるようにな」
「その、分からないことがあるのですけれど。その大きなゴーレムは私を監視している間、どこに隠していましたの?」
「ちょっと待ってくれ。ストレージ」
俺は魔法を発動させる。
すると、俺の目の前が黒く輝きだし、異空間が現れる。俺はジャイアントゴーレムを操作して異空間へと収納した。
「これは空間魔法!? リオンさん、あなたは一体……」
リゼはまるで勇者に出会ったかのような顔をする。使い手の少ない高位の空間魔法を俺が発動させたからだ。
「そう言えばまだ言ってなかったな。俺は元々1級祓魔師だったんだ。だからこの程度の魔法なら朝飯前だよ」
「そうでしたの……。お父様が雇っていただけにそれなりの人物だとは思っていましたけど。そこまでとは……」
「まあ、今の俺は教皇聖下から破門されてるので、それなりに不安定な立場ではあるけどな」
「破門? 一体あなたは何をやらかしましたの?」
「……少し前に依頼を受けた貴族の息子が高位の悪魔によって憑依されていてな。やむなく息子ごと憑依した悪魔を滅ぼしたんだが、その責任をとってアムナー法国の首都をでることになった」
「ああ、あなたらしいですわね……」
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